第353話 四大商会の関係
四大商会とはブロフォストに大小百以上ある商工業者の中でも、組織規模が大きく、格別の財を築いたリンデン、ゲスボーラ、ヤコー、ニブラーの四つの大商会の総称である。
かつては魔境域に営業拠点を移してしまったレーム商会を加え、五大商会と呼ばれていたが、その財力は絶大で、返済不能な額にまで積み上がった借金によって、王家や貴族たちももはや軽く扱えない存在になっていた。
しかし、三百年前の大戦時における功績に基づいた血筋や格式を重んじる風潮が強いクローデン王国内においては、商人の地位は高いとはいえなかったので、如何に力があろうとも身分による支配を越えて、王権の領分を侵すようなことは無かった。
その王家を頂点とする支配体制は崩壊に導いたのがクローデン王国の国王エグモントの逃亡である。
放棄された旧王都に残された者たちの中で最も力を持っていたのが商人たちであったが、都市の支配や政治などに関する知識や経験は無く、その分野に長けた人材も当然のことではあるがいなかった。
民心を得ようにも、王家や貴族が保っていた支配階級的な考え方が根強く残っているため、私兵団による武力統治しかこのブロフォストの混乱を納める方法が無いと四大商会からなる商業連合は考えたようである。
ブロフォストを大きく四つの縄張りに分け、民心を分断し、互いに争う
アンゼルムの話によると、商業連合を実質的にまとめているのはリンデン商会であるとのことだった。
リンデン商会の会長であるデトマールは、商会の建物から、旧王城ベルクバーランドに拠点を移し、そこを商業連合の本拠地と定めた。
リンデン商会はクローデン王国で最も歴史があり、力のある商会でもあった。
同じ四大商会のゲスボーラ、ヤコー、ニブラーと比較してもその実力と組織の規模は別格で、現在、旧王城ベルクバーランを独占的に占有していても文句が出ないのはそういう商会間の上下関係のような物が存在するからであろう。
「険悪を装っているが、四大商会の関係は実は良好。いわば同じ船に乗った者同士というわけだ。王城では頻繁に会長同士の話し合いが行われ、商業連合の懸案について話し合われている。揉めるのは各商会の取り分についてのみだ。私兵団の維持に当てる資金を差し引いても商業連合全体としての懐具合はそれほどひっ迫していない。考えてもみろ、腕っこきは一握りであとは失業中の食い詰め者がほとんどだ。頭数を揃えるだけなら雇うのにそれほど金はかからない。治安維持に金がかかるというのは奴ら商人の上手い方便さ」
アンゼルムのこの話にはエルマーたちも驚き、憤りの声を上げていた。
クロードは、ニブラー商会の時と同様に、ゲスボーラ、ヤコーの二つの商会の本店事務所を押さえにかかった。
幾つかの支店や店舗などもあるにはあるが管理運営上の理由から、これらの商会は一か所に富を集約させる傾向にあり、商会の事務所と事業主の住居は同一建物無いし、同敷地内であることが多いようだったので当たりがつけやすい。
警備の人間を多く配置し、厳重な場所はそう多くはないからだ。
単身で、厳重な警備と堅牢な保管庫をものともせず、その財貨を力づくで奪いとり、主な幹部の身柄を押さえたが、最初のニブラー商会襲撃の情報はすでに届いていたようで、ゲスボーラ、ヤコーの両会長の姿は無く、取り逃してしまった。
もっとも資金さえ押さえてしまえば、いかに大商会の会長と言えどもどうすることもできないと思われたのでそれほど気落ちはしていない。
逃げのびた先も、おおよその検討はついている。
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