第352話 余所者のお節介

「懐かしの我が家亭」に戻ったクロードは、エルマー率いる自警団の面々やアンゼルム、そして見慣れない数人の男達に、先ほどニブラー商会の保管庫から奪った財貨の一部を見せ、結果を報告した。


これには、その場にいた全員が驚き、信じられないというリアクションだったが、手に取って財物を確かめるほどに、これは現実なのだと受け入れてもらえたようだった。


「エルマー、そっちの方はどうだった?」


「はい、あれからまだそれほど時間が経ってないのでそれほど多く声をかけたわけではないですが、感触は良いですよ。やっぱり、商会たちのやり方や報酬に不満を持っている人は結構いて、特に僕たちと同じ元冒険者ギルド出身の者は話を聞いてくれました。アンゼルムさんやガイがいたことも大きいと思いましたが、ほら、もうすでに数人協力してくれるっていう人が現れてきました」


エルマーがそう言ってみた先には、数人の男女が立っていた。

彼らも元冒険者であるらしい。

今の傭兵のような仕事には不満を持っており、元の冒険者家業に戻りたいのが本音のようだ。


クロードはブロフォストが元の平穏を取り戻した暁には、冒険者ギルドの再開をすることを約束し、重ねて自らの口で協力を求めた。



「それで、次はどうするつもりなんだ」


アンゼルムが険しい顔で声をかけてきた。


「同様に、残り三つの商会の金蔵かねぐらを襲う。お前たちには、街の治安維持を頼みたい。職にあぶれたことを知った私兵たちが暴れ出さないように、上手くやってほしい。できるだけ荒事にせず、見どころがありそうな者であれば味方に引き入れて欲しい。金に糸目は付けない」


「金にも情にも響かない奴らはどうする? この状況を悪く思っている者ばかりではないぞ。今この街には秩序と法がない。商会に逆らいさえしなければやりたい放題だ。この状況を好ましく思っている無法者どもを説得するのは骨だぞ」


この問題は常に付きまとってくる。

存在するのが平和に暮らすことを望む善良な人々だけならば良いのだが、いかに法を整え、道徳を説こうとも悪事をなす人間が絶えることは無い。


クロードがかつて住んでいた元の世界のように文明が発達していても、殺人、強盗、詐欺などの全ての犯罪がこの異世界と同様に存在していた。


厳粛な法と警察力をもってしても悪の芽を絶やすことは出来ないのだ。



「現場での判断はアンゼルムに任せたい。流血は避けたいが、手心を加えてお前たちを危険にさらしたのでは元も子もないからな。都市外への追放、捕縛がかなわないときは、最後の手段として、命を奪うことになってもやむを得ないだろう。犯罪の抑止は都市の掌握後になってしまうが、とにかく今は市民の安全を第一に考えてくれ」


クロードは≪異空間収納≫からその場に置けるだけの財貨を取り出し、エルマーに活動の資金に使う様にと指示した。


「それで、申し訳ないんだが、残り三つの商会の名前と場所、そして知っていることを教えてくれないかな?」


クロードのこの言葉には、その場にいた全員がきょとんとした。


「クロードさん、まさか四大商会について何も知らずにこの計画を始めたんですか?」


エルマーが呆れたように言った。


確かにこの街でクロード・ミーア共同商会を立ち上げたのは自分だが、その業務のほとんどすべては、ヘルマンの妹であるミーアに丸投げしてしまっていたし、この異世界に来てからのほとんどの期間は魔境域で過ごしていたので、このブロフォストについてもそれほど詳しいわけでもないのだ。


四大商会の名前もヘルマンやマルクスとの雑談などで何となく聞いたような気もするのだがうろ覚えだった。


その余所者よそものの自分が詳しい事情も知らずにお節介にも、ブロフォストの治安回復に乗り出そうというのだ。

皆に呆れられても当然だった。


ブロフォストの変わり果てた姿を目にし、義憤ぎふんのようなものにかられたわけだが、やはり行動を起こすのが唐突過ぎたかと内心少し反省したが、今更後には引けない。


「すまない。教えてくれるかな?」


クロードは頬を指先で掻き、バツが悪そうに言った。


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