第349話 自らの手

エルマーの涙を見て、クロードは自分の考えの浅はかさと間違いに気が付いた。


人族の問題は人族が解決すべきという理想を実現するためとはいえ、まだ何の覚悟も無かったエルマーを都合よく自分の傀儡かいらいのようにしてしまうところだった。


ミッドランド連合王国建国の際は、オイゲン老や旧ザームエル勢力の人材が自分を助けてくれて何とか国としてのていを持つに至ったわけだが、その経験上から、自分が協力してある程度の基盤を整えてやれば、その後は優秀な人材を周りにつけてやるだけで上手くいくと安易に考えていたのだ。


だが、自分とエルマーでは置かれている状況がまるで違う。


自分がミッドランド連合王国を建国したのは、あくまでも自らの意思であり、当時は元の世界に帰るための情報を得たかったことなどの目的とオイゲン老たちの思惑が合致したという状況や背景があった。


だが、エルマーにしてみればそれほどの動機が無ければ、義理も無い。

自らの命を危険にさらしてまで、無関係なブロフォストの民の生命を背負い込む必要などまるでないのだ。


自分の思惑を達成するために、人の運命をもてあそぶ。


これでは、これまで自分が苦々しく思っていたこの異世界の神々と何も変わらないではないか。


そもそも自分だって、もし元の世界にいた時そのままの状態でこの異世界にやってきていたら、何も成しえていなかっただろう。


≪異界渡り≫としての人間離れした強靭な肉体とスキルが無ければ、最初に出会った悪鬼たちにさえ殺されていたかもしれないのに、そのことを忘れ、他者に必要以上の重荷を背負わせようとしていた。


どうかしていた。

手に余す大きな力を得たことでどこか本来の自分を見失ってきている。

神様気取りも良いところだ。


クロードは内心、己の思い上がりを恥じた。



「すまない。今のは聞かなかったことにしてくれ。エルマーとその家族の安全は俺が保障する。自警団やエルマーの担当区域の住民たちも希望があれば、アウラディア王国にでも避難させよう。ブロフォストが落ち着くまで面倒を見るよ」


自らが望む状況を作りたいのであれば、やはり自らの手で行わなければならない。



クロードはクローデン王国の旧王都ブロフォストを自らの管理下に置くことに決めた。

四大商会による商業連合から統治権を奪い、この街の治安と秩序を取り戻す。

もちろんミッドランド連合王国軍は動かさず、戦にならない方法で内部から速やかな掌握を目指したい。


自分が動いたとしても多少の血は流れるかもしれないが、それでも何者かが立上りブロフォストを解放してくれるのを待つよりは犠牲が少ないはずだ。


成り行きでもうすでに矛を交えてしまったので、まずはこのニブラー商会からどうにかしなければならない。


「さて、次はどういう手を打つべきかだな」


スヤスヤと寝息を立てるベルントと護衛たちを眺めながら、クロードは呟いた。










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