第344話 元銀狼級冒険者のガイ

エルマー率いる自警団の主なメンバーは、王都冒険者ギルドの元冒険者たちであった。

ランクも青銅鳥、鉄熊、銀狼と様々で、年齢も幅広い。


冒険者としては駆け出しのひよっこだったエルマーと比べると、実力は上の者も多いであろうし、なぜ彼らが従っているのか疑問だったが、こうして共に酒を酌み交わしているうちに少しわかってきた。


エルマーは謙虚で、偉ぶったところが無く、それでいて細かいところに気が付く。

臆病なところがあると思っていたが、先ほどの火事に対する対応を見る限り、意外と冷静で腹が据わっているように見えた。


エルマーに言わせると、「あのザームエルとか、身の丈の何倍もある巨人と比べたら、大抵のものは怖くなくなりますよ」とのことだった。


もともと人懐っこくて、バル・タザルのような年長者にも可愛がられていたが、この三年の年月で様々な経験を経て成長し、皆から頼られ慕われる存在になっていったのであろう。



自警団の中で一番腕が立つという元銀狼級冒険者のガイという男の話では、エグモント王がブロフォストを捨てて逃げた混乱の最中、何とか事態を収拾しようとするエルマーを気まぐれで手伝ったのが自警団入りのきっかけだったらしい。


略奪や強盗が横行する中、自分が任されていた店舗の店員と共に近所から逃げてきた住人の保護に奔走するエルマーを見かけて、放っては置けなかったらしい。


「まあ、ギルドのパトロンだった王家が逃げて無職の身だったし、飽きるまでは世話になろうと考えていたんだが、案外居心地が良くてな。長居しちまった」


ガイはいつの間にかクロードの隣の席に陣取って、しきりに話しかけてきた。

強面であるにもかかわらず、気さくでどこか隅におけないところは、どこかアルバンに似ているような気がした。


ガイは、クロードとシルヴィアにしきりと酒を勧めてきたが、普段そこそこいける口のシルヴィアは警戒しているのか、やんわりと断り、今日は一滴も口にしていない。


ガイは、ほろ酔い加減で自警団のエピソードをいくつか語ったあと、突然別の話題を切りだしてきた。


「お前さん、クロードだったか。若いが随分と修羅場をくぐって来たみたいだな。それに、作業しているところを見ていたが、あの怪力に、身のこなし。ただ者じゃあないな。エルマーがさっき、挨拶で元冒険者だと言っていたが、今は何をやってる? このブロフォストに来た目的は何だ?」


突如、ガイの眼光が鋭くなり、クロードの目を真っ直ぐに射抜く。

そして流れる様な動作で腰のホルダーから短剣を抜くとクロードの喉元に突き付けてきた。


周囲のテーブルで和やかに酒を酌み交わしていた数人が立上り、クロードのいるテーブルを取り囲んだ。


シルヴィアが何かしようというそぶりを見せたが、最近覚えた魔道の≪念話≫で『問題ない。動くな』と伝えた。


その様子にエルマーは慌ててなだめにかかる。


「この通り、エルマーのやつはお人好しで警戒心が薄い。お前、こんな治安の悪いブロフォストに女連れで、一体何しに来た。どこか別の地域から逃れてきた流れ者にはとても見えない身なりだ。このご時世に、観光でもあるまい。誰の差し金だ。言え!ヴェスビル商会……、それともどこぞの貴族に雇われた間者か?」


ガイのドスの効いた声が、「懐かしの我が家亭」の酒場内に響いた。


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