第343話 人間クロードとしての生活
「占い小道」の火事は予想よりも大きなものだった。
油をまかれたということもあり、火勢が強かった。
「占い小道」はブロフォストでも比較的古い小路地で、この辺りの建物は石造りではなく、木造が多い。
名前の由来は文字通り、占いを生業をするものが多いからであるが、高齢者も多く、どちらかと言えば貧しい階層の住人が多く住む。
どこからか集まってきた大勢の野次馬たちが見守る中、エルマーたち十人以上からなる自警団の面々はチームワーク良く解体作業を進めていく。
火をつけられたという建物は全焼。
エルマーたちが駆けつけた時には周囲にも延焼しており、その区画の建物四
その他の建物にも火は燃え移り、一刻の猶予も無かった。
今回の火事による死者は二人。年老いた老夫婦だった。
延焼した建物の二階に住んでいたが逃げ遅れたようだった。
他にも火傷を負った者など両の手では足りない負傷者がでた。
火が消えた後の瓦礫の山を見て、立ち尽くしているのはこの辺りに住んでいた住人たちであろうか。
それでも街中を火の海にしなくて済んだのは、エルマーたち自警団の活躍の賜物であるわけだが、彼らの顔には一様にやるせない気持ちが滲みでていた。
クロードも周辺の建物の解体を常人では持ちえない
≪火炎操作≫を用いれば火勢を制御することはおろか、延焼を防ぐこともできただろう。
また、水神ヤームを取り込み、さらに力を増した水神業を使えば、火事自体を消すことも容易かった。
しかし、それを行わなかったのは≪神≫としての介入はしないと誓ったからであり、衆人の目が気になったからであった。
どうすることもできない苦難にある時、人は何かにすがりたくなる。
もしこの場で≪神力≫の一端をさえ、見せてしまったなら、アウラディア王国はもとよりミッドランド中に広がってしまっているあの好ましからざる神官メレーヌによる新興宗教のようになってしまうと恐れた。
首都アステリアにおいては、お忍びで街中に出て行っても、路上で正体が発覚しようものなら、すぐに信徒たちが群がってきて大騒ぎになってしまう様になってしまった。
現人神としての自分が大きくなるほどに、人間クロードとしての生活に支障が出て来るようになったのだ。
イシュリーン城内にも、この新興宗教の影響は出始めており、家臣たちには決して自分をそういう信仰対象として扱わぬようにと厳命している。
人間クロードとしての生活を守りたいということ以外にも理由はあった。
というよりもこちらの方が重要なのだが、この≪世界≫の住人にはできるだけ≪神≫に依存せず、自分たちの問題は自分たちで解決するという意識を持ってほしかった。
目の前の困っている人を助けたくなる気持ちを抑えることは辛いが、この≪世界≫の全ての場所で起こっている悲劇の一つ一つを救って歩くわけにもいかない。
消火活動が終わり、シルヴィアの白魔道による負傷者の治療が終わると、クロード達は自警団のメンバーたちとともにエルマーの店に戻った。
メンバーの慰労と話し合いを兼ねた集会が開かれるらしい。
クロード達は作業を手伝ったことと、顔役であるエルマーの知り合いであることから、自警団のメンバーから歓迎され、一緒に来て欲しいと誘われた。
エルマーからも、ブロフォストの現状を知ってほしいので是非にと乞われた。
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