第339話 第三天の神

エナ・キドゥとの会話は、上位次元の神々の事情やこの≪第一天≫を含む全階層次元について知る上で非常に有益であった。


彼女は第三天の神であるにもかかわらず偉ぶったところも無く、非常に話しやすかったし、何よりもその話し方や恥じらいの欠片も見当たらない格好に反して、非常に物知りであった。


彼女の機嫌をそこねることなく、聞き出せるだけの情報をこの機に得たいとクロードは思っていた。


「この≪世界ルオ・ノタル≫をとても良くできた世界と言っていたが、あれはどういう意味なんだ?」


「そのままの意味だ。他意は無いよ。多様な生物が生きていく上で好ましい環境だし、資源も豊富だ。何か手本でもあるみたいに完成されている。私の創った≪世界≫よりずっといい出来だよ。特に信徒たり得る人類種の完成度が高くて、アイデアが斬新だ。魔力とかいう、霊子エネルギーや≪神力≫とも違う別のエネルギーを内蔵した人間。こういうのはあまり見たことがないな。ガイア様が作る人間は全て多少の≪神力≫を内包しているらしいけど、それを参考にしたのかな」


エナ・キドゥは足をバタつかせながら、独り言のように言った。

足が動くたびに股間を隠す薄くて頼りない布がずれて、見えてはいけないものがあらわになるのではないかと気が気ではない。

≪神力≫を認識できない普通の人間にとっては、彼女の姿は見えないため問題ではないが、クロードにしてみれば非常に目のおきどころに困る状況だった。


「ガイアが作る人間っていうのは、俺も含まれているんだよな?」


「たぶんね。ガイア様は人間を作る時、自らの≪神力≫を込めた男女のつがいを作り、それを気が遠くなるくらい長い時間をかけて、繁殖させて増やすらしいけど、普通の神はそんなことはしない。なんでわざわざそんな手のかかることをするのか私にはわからないけど、そのやり方で≪第八天≫の主神の一人に昇りつめているわけだから、何かそうするだけの理由があるんだろう。実際に神の創った創造物に過ぎない君が≪第一天≫で過去に例のない変化をもたらしたのだからね」


「俺がこの異世界にやって来た時にはすでに、漂流神を超える≪神力≫を有していたようだ。ルオ・ノタルの分身わけみと言ってもいい≪光の九柱神≫でさえ、個別には俺の≪神力≫をはるかに下回っていたと思う」


「それは、そうだろうね。≪第八天≫の主神たるガイア様の≪神力≫だもの。≪第一天≫辺りでくすぶっているような漂流神や不完全な神の分身なんて相手にならないよ。あれ、でも待てよ……」


エナ・キドゥは何も身に付けていない褐色の乳房の下で腕組みした真似をすると、難しい顔をした。


「そうか! ガイア様が人間を創造するときに≪神力≫を組み込むのは、信徒の信仰を経由しない方法で≪神力≫を増殖させるため!人間は繁殖力旺盛でほっといてもポンポン増えるから、もしした子供たちの≪神力≫が親と同等量で目減りしない状態で生まれて来るなら、投資みたいな感覚で≪神力≫の増殖が可能ってことでしょ。生贄として≪神力≫回収したっていいし、寿命が来て死んだら≪神力≫を魂力たる霊子エネルギーと一緒に回収したって良い。まとまった≪神力≫が必要になったら災害か何かでまとめて回収できるし、やだ、私、天才!」



第三天の神エナ・キドゥは異常に興奮した様子で一人でまくし立て、そしてこちらを一瞥することも無く、自らの次元階層に帰っていった。


勝手にやってきて、勝手に去る。


どこまでも騒がしい第三天の神であった。

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