第334話 一つの疑問

最下層次元であるこの≪第一天≫に残り、≪世界≫を豊かに導くことで信徒を増やし、信仰を集めて次元の底を打ち破るほどの≪神力≫を蓄える。


マザ・クィナスがクロードに伝えた課題は驚くほどシンプルなものだった。


だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。

それほどまでに≪唯一無二の主≫とやらの言いつけ通りにしたいのであれば、なぜ≪第二天≫以上の全ての神たちは手をこまねいているのであろう。


それらの神たちが力を結集すれば、最下層次元の最下級神が悪あがきするよりよっぽど達成の可能性が高いのではないか。


もっともな質問だ。確かに存在する全ての神の力を結集すれば次元の底を打ち破れるやもしれん。だが、そうできぬ理由があるのだ。十一に分かれた各階層次元は絶妙なバランスで成り立っておる。各階層次元が耐えられる≪神力≫及び霊子エネルギーの総量は決まっていて、それゆえに上位次元神たちはこの階層に挙って集まることは出来ない。各階層が耐えられる≪神力≫の限界量はある程度の推定はされているものの未だ断言できぬ状態だからだ。おっと、我ら三神の≪神力≫が加わったくらいでは大丈夫だから心配はするなよ。そういった事態にならぬように各階層の階層主によって管理されておるのだ。この≪第一天≫は最も新しく、最も狭い。よって、未だその全容を把握できてはおらぬし、神々もうかつに手を出せぬのだ。それゆえ、自らが生み出した若く未熟な血縁神を送り出し、大業を為す端緒を掴もうとしているのだ。皆、≪唯一無二の主≫の寵愛を自分がもっとも受けたいと願っているからな。それともう一つ……、いやこれは明かさないでおこう。決意が鈍ってしまうからな。まあ、今日のように≪第一天≫が神々の登竜門のような場所になったのはそういう経緯からであるが、他にも何か聞きたいことはあるか?」


「いや、もう十分だ。俺はここに残って為すべきことをする。それでいいだろう」


「うむ。だが、気を付けることだ。この≪第一天≫には、このルオ・ノタルの≪世界≫以外にもまだたくさんの≪世界≫がある。現状、汝が≪第一天≫で最も力のある神にはなったが、そのすべてを掌握したわけではないことを忘れるな。上位次元神たちは、自らが生み出した≪神≫を今後も送り出してくるであろうし、≪第一天≫の他の神々もお前の≪世界≫を奪わんと狙ってくるかもしれん。何しろ汝はこの≪大神界≫でただ一人の異端の神。快く思っておらぬ神も多い」


マザ・クィナスはちらっとパーヌリウスを見やり、そしてクロードの方に歩み寄るとその肩に手を置いた。


「これで、伝えるべきことは一通り伝えた。あとは君の選択が正しからんことを祈るばかりだ。新しき神ディフォンのこれからの健闘を祈っておるよ」


そう言うとマザ・クィナスは来た時のように巨大な光の柱の中に消えた。


「じゃあディフォン、わからないことや困ったことがあったら、私のことを思い浮かべながら、呼び掛けろ。私も忙しいけど、できるだけ早く駆けつける……と思う」


第三天の神エナ・キドゥはそう言って、クロードに向かってウインクすると、こちらを一瞥いちべつもしないパーヌリウスと共に消えていった。


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