第333話 二つの選択肢

マザ・クィナス曰く、クロードがこの先何を為すべきかは二つの選択肢があるのだという。


一つ目は第二天の神に昇格し、新たなる階層で≪世界≫を作り、更なる上位次元の神となることを目指すというもの。

この場合は、今いるこの≪世界≫を清算せいさんし、それと引き換えに得られた≪神力しんりき≫で、第二天内に新たな≪世界≫を創造することになる。


二つ目は、このまま最下層次元の第一天に留まり、第一天の下に新たな次元階層を開くための挑戦を続けるというものだ。


どちらを選ぶかはクロード自身に委ねられているそうなのだが、一つ目の選択肢は検討に値しない。


愛するシルヴィアや親しい者たちが生きるこの≪世界≫を無くすることなどできるはずが無いし、何より第二天の神に昇格することなどに興味は無かった。


「二つ目を選ぶ。この≪世界≫は清算しない」


クロードの即答に、第三天の神エナ・キドゥが口笛を吹いて、驚きを表す。


マザ・クィナスは一瞬、エナ・キドゥを睨みつけたが、せきばらいをひとつして話を続けた。


「困難な方の道を選ぶか。その道は如何なる神も為しえてこなかった大業だ。かつて≪大神界≫は今のように十一の階層に分かれてはいなかった。そして神は≪唯一無二のしゅ≫、ただ一神のみであったのだ。≪唯一無二の主≫は、神産みの儀式により始まりとなる四柱の神を産み出した。≪唯一無二の主≫は、≪大神界≫の底を打ち破り、四柱の神々をその新たに現れた次元階層に住まわせると、自らは最上層次元にお隠れになり、仰られたそうだ。『我が子らよ、さらに下の下層次元をひらけ。その次元階層が十二を数えた時、私は再びお前たちの前に姿を現そう』とな。新たな次元階層を拓くためには膨大な数の≪世界≫と≪神≫が必要だと四柱の神々は考えた。次元の底を打ち破るには膨大な数の信徒と信仰により集められた≪神力≫が必要となるからだ。四柱の神々は≪神≫を産み続け、ついには十一天にまで至ったが、この最下層次元である第一天の底だけは如何なる神も打ち破ることは出来なかった。第一天に至ってから途方もない時間が経ち、ついには第一天こそ次元の本当の底なのではないかという考えが神々の間の定説となりつつある。≪唯一無二の主≫は初めから不可能であることを知りながら、自分たちを遠ざけるために無理難題を押し付けたのではないかと考える神々が現れはじめ、≪神界≫は二つに割れた。第一天の底を打ち破らなければ永遠に≪唯一無二の主≫のもとには行けない。絶望と疑心が≪唯一無二の主≫への愛を憎悪へと変えたのだ。反逆した神々は次元階層を遡り、≪唯一無二の主≫のおられる第十一天を目指したが、ことごとく討ち取られた。それ以後、この十一階層の次元間には厳しい戒律と監視体制が置かれ、下位次元から上位次元の移動が原則禁じられた。おっと、話が少し脱線してしまったな」


マザ・クィナスは話疲れた様子もなく、人懐っこい笑みを浮かべるとつるりとした頭を掻いた。


まだ話す気のようだ。

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