第332話 主の使い
眩く輝くその存在は、その背後に二神を付き従え、クロードの目の前に降り立った。
「名もなき新たなる神よ。我が名は第四天を統べる神マザ・クィナス。我らの頂に立つ≪唯一無二の
マザ・クィナスと名乗ったその≪神≫を前にして、クロードは自然と膝をつき、見上げるような姿勢を取ってしまった。
マザ・クィナスの≪神力≫はこれまで出会ったどの神よりも大きく、クロードを上回るものであった。
気圧されたというよりは、その存在から感じる≪神格≫の違いともいうべき何かによって自然と畏敬の念のようなものが湧き上がってしまったのである。
「立ちなさい。神はそうたやすく膝をついてはいけない」
マザ・クィナスは、光を放つ≪
マザ・クィナスの≪
その肉付きの良い恰幅の良い体に白い独特な意匠の服を身に着けており、足は裸足であった。
クロードはマザ・クィナスの言う通り、立ち上がるとその眼を見据えた。
「それでいい。おそらく汝は、≪神≫として目覚めてから、自分より大きな≪神力≫の持ち主に出会ったことがなかったのだろう。お前の神としての本能がそうさせたのであろうが、今後は気を付けることだ。いかに力の隔たりがある相手を前にしても神としての
マザ・クィナスは親しげな笑みを浮かべた。
落ち着いて見てみると、元の世界の大黒様に少し似ているような気がしてきた。
「汝は、これまでの神々とは全く異なる方法で生み出された新しき神。その神が現状、最下層次元たる≪第一天≫において最も力を有したる≪神≫にまで昇りつめた。しかもその≪神力≫の総量は我が第四天に属する神と引けを取らないときている。此度の新たなる試みの成功に対し、≪唯一無二の主≫は、ひどくお喜びになり、異例中の異例ではあるが、そなたに≪
「ディフォン……」
「そうだ。≪神喰らいの神≫を意味する名であるそうだ。本来であれば、この場にはお前の創造主たる第八天のガイア様が来られるはずであったが、何か思うところがあるのかこの栄誉ある御役目を私に譲られた。よって、これからお前がこれから為すべきことを私が代わりに伝える。耳を傾け、≪唯一無二の主≫の御心をしかと理解せよ」
第八天のガイアの代理とはどういうことであろうか。
この≪世界≫に放り込んだ張本人が来たなら、その理由や意図など聞きたいことが山のようにあった。
恨み言や文句の一つも言ってやりたいようなところもあったが、それを恐れてのことではないだろう。
何せ、これだけの≪神力≫を持つ神マザ・クィナスよりもはるか上の階層の神であるというのであるから、少なくとも今の自分には到底及ばぬ存在であることは間違いない。
「まず本来、≪神≫というものは、人が子を
マザ・クィナスの背後に控えていたうちの一神が前に進み出てきた。
「私は第三天の神エナ・キドゥだ。君が他の神とどう違うのか、とても興味がある。まあ、仲良くやろう」
エナ・キドゥと名乗った神は、奔放な雰囲気の女性の姿をしており、ほとんど裸身に近い恰好をしていて、少し目のやり場に困る。
人間の感覚で言えば、二十代半ばくらいの見た目で、派手な感じではあるが褐色肌の健康的な美人である。
あと一神、マザ・クィナスの背後に控えているが、この神はこちらを見ようともせず、何か苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
「これ、パーヌリウス。新たな仲間に挨拶せぬか」
パーヌリウスと呼ばれた神は何か獣の皮で作られたような服を着て、狼のような肉食獣の頭部を加工して作ったような帽子を被った青年だった。
目付きが悪く、顔には刺青のようなものを施している。
「俺は、監視役だ。教育とやらはエナに頼め」
パーヌリウスは吐き捨てるように言うと背を向けてしまった。
「このパーヌリウスはエナ・キドゥと同じ第三天の神だ。彼らも自らの≪世界≫の管理があり忙しい身だが、特例で≪交信≫と≪往来≫が許可されている。困ったことやわからないことがあれば彼らを頼るが良い」
マザ・クィナスはやれやれといった様子でパーヌリウスをエナ・キドゥの横に並ばせると本人の代わりに紹介してくれた。
それにしても≪神≫とは言っても、こうして見ると普通の人間と何ら変わらない。
ただ、その
神は自らの姿を似せて人間を創ったのだというのだから、当然と言えば当然なのだが、やはり同じような見た目をしているというだけでも親近感が増す。
「さて、ディフォンよ。改めて本題に入ろう。汝が、神としてまず何をすべきなのかをしかと聞くが良い」
マザ・クィナスは急に真顔になり、静かな眼差しで説明を始めた。
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