第328話 情報の奔流
デミューゴスの思惑がどこにあるのかわからぬまま、事の成り行きを見守っていても良いのか。
神域の外側を覆おう「ただ一人になるまで解けることはない」というこの結界が無ければ、少なくとも六神たちは逃げおおせる可能性が高まると考え、一先ずこの結界が本当に内側からの破壊が不可能か試してみることにした。
クロードが身に備わった≪神力≫の全てを使うには、まずはこの肉体を消滅させなければならない。
肉体を失う時、例えようのない苦痛と脱力を伴った硬直を感じ、五感が閉じる。
二度と味わいたくない体験だが仕方がないと覚悟を決め、自らの肉体を≪神の火≫で焼くため、≪神力≫を高めようとした。
『おいおい、クロード君。余計なことをするんじゃあない。僕のせっかくの気遣いを無にするつもりか。考えてもみろ、これだけの数の≪神≫が≪神域≫外でその持てる力の全てをもって相争えば、人界は愚か≪世界≫全体にとてつもない影響が出るぞ。未曽有の大破壊だ。君の力であれば、恐らく
デミューゴスは、獣神ヴォルンガの顎に喉元を噛みつかれながら、≪念話≫で警告してきた。
下半身は大地神ドゥハークの体を構成している土砂で覆われ、身動きを封じられている。
一方のルオネラの方は、火神アハタルの炎に巻かれながらもその身を焼かれることなく、捕らえた戦神バランをその手に持って上半身をかみ砕いている。
戦神バランはぐったりとして、その身は少しずつ粒子状に崩壊し始めた。
クロードの元に風神セランの≪神力≫の残渣の光が集まってきた。
どうやら風神セランは≪神としての死≫を迎えたらしい。
スキル≪亜神同化≫が昇華したことで得られた≪神喰≫の効果だろうか。
その効果範囲はかなり広いようで、ルオネラたちからはかなり離れているにもかかわらずこの場所まで分解された≪神力≫の粒子が吸い寄せられ集まってきた。
風神セランであったものがクロードに吸収されていく。
それと共に風神セランのものと思われる記憶の断片のようなものが脳裏に浮かんでは消えた。
まだ神としての威厳を保っていた頃のルオ・ノタルの姿。空一面に放たれた無数の風の精霊たち。恭しく佇むひときわ大きな風の精霊――その威厳、風格から森の精霊王エンテに通じるものを感じる。おそらくは風の精霊王であろうか。
神殿に詰めかける信徒の群れ。
三百年前のルオネラとの戦いの一場面。
デミューゴスが星月神ヌーヴュスと思われる神を捕食する様。
そして、荒涼たる渓谷に生み出した≪神域内≫で無力に震え、眺める風神セラン自らの両の掌。
その他にも様々な記憶の欠片たちがクロードの脳内に飛び込んでくる。
ああ、そして次は戦神バランのものだろうか。
戦神バランも息絶えたのか。
≪神力≫の粒子と共に記憶が飛びこんできた。
風神セランと戦神バランの記憶であると思われるものが入り混じり、クロードの一部になっていく。
その情報量たるや凄まじく、現実世界で起こっていることが把握できなくなるほどだった。
おそらく人間としての脳の処理能力を超えてしまっているのだろう。
クロードは膝をつき、脳内に溢れる情報の奔流に耐えた。
記憶だけではなく様々な感情が胸の奥からこみあげてきて、気が付くと自分でもよくわからない涙が頬を流れていた。
何かが悲しかったわけでもない。
その混沌とした感情に突き動かされるように嗚咽した。
その後も途切れることがなく、膨大な何かが自分目掛けて集まっては、その身に吸い込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます