第327話 一か八かの賭け

数の上では六神たちが圧倒的に有利だが、≪神≫と≪神≫の闘いでは必ずしもそうではないことをクロードは身をもって知っていた。


勝敗を決めるのは、あくまで≪神力≫の大きさである。


相手の≪神核≫を砕きうるだけの≪神力≫を持っていなければそもそも戦いにすらならない。

かつて戦った火神オグンがクロードの肉体を焼き尽くしながらも敗北したのは、そのためだ。


力の大半を失い弱り切った存在である漂流神たちはもとより、この場にいる六神、ルオネラ、そしてデミューゴスのいずれもクロードの≪神核≫に届きうる≪神力≫を有してはいない。


もしクロードの≪神力≫とこの場にいる者たちの≪神力≫の量を比較するならば、ルオ・ノタルがその力の大半を切り離した存在であるというルオネラでさえ、せいぜいクロードの五分の一以下に過ぎない。


他の六神に至っては、五十分の一、有るか無いか。


もし、この場でクロードが手を出さなければ、待っているのはルオネラたちによる六神の一方的な虐殺である。


≪神力≫の多寡を覆す可能性が僅かながらにもあるのは、封印術や御業の優劣であるがそれでもここまで差があっては難しいと思った。


光の九柱神の内、デミューゴスに二柱ふたはしらの力が奪われているのも痛い。



クロードの分析と予想通りに戦況が傾き始めた。


「ああ……、力が溢れる。全てを壊したい……壊されたい。愛されたい」


ルオネラの視線は虚空を彷徨い、そしてその眼球の動きが一瞬止まったかと思うと、口を大きく開け、その中の舌をまるで捕鯨砲の銛のように射出した。


凄まじい勢いで伸びた舌は、やがて透明な人型の何かを刺し貫いた。


『お、おのれ。この……化け物め……』


風神セランは風をイメージさせる≪人様態≫の姿をさらし、苦悶の表情を浮かべた。

胸部を貫くルオネラの鋭い舌から逃れようとするが、次の瞬間にはルオネラの口中に引き寄せられ、その鋭い歯によって噛み千切られた。


ルオネラは恍惚の表情を浮かべながら、四本の腕を揺らめかせている。


『セラン! 貴様、よくもセランを!』


鎧甲冑に身を固めた武人の姿になっていた戦神バランが跳躍し、ルオネラの顔めがけて、刃の付いた長柄の武器を振るうが、それをはるかに上回る速度で動くルオネラの手で叩き落とされてしまった。


デミューゴスの方は、獣神ヴォルンガと大地神ドゥハークを相手にしている。


デミューゴスは「この結界内から生きて出るつもりが無い」と言っていた。

その狙いは恐らく≪神喰≫というスキルに変わった≪亜神同化≫によって、自ら俺に取り込まれることにあるのだろうが、何か勝算でもあるのだろうか。


デミューゴスは自らを捕食した相手の肉体を乗っ取ることができるということがわかっているが、それはあくまでも生物的な特色であって、≪亜神同化≫にもそれが適用される保証はない。

デミューゴス自身が神でない限り、取り込んでいる≪神力≫のみが回収されてしまい、≪亜神同化≫は作用しないはずだ。


だが、二柱の神を取り込み、自ら≪神≫になっているという状態なのであれば、可能性はあるのかもしれない。


一か八かの賭けに出ることはデミューゴスも躊躇ためらっているように思っていたのだが、俺の思い違いであったのだろうか。


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