第317話 人族の守護神
今回の防衛戦争はエーレンフリートたちに委ね、手を出さないつもりであったが、状況が変わった。
相手が人ならぬ神であるなら、相手をするのは自分だ。
人間同士の争いに神、あるいはそれに類する超越者が介入することにクロードは正直、疑問を抱いていた。
人間の歴史は、人間が自分たちの力で刻んでいくべきものであり、神の如き超越者に上から与えられたり、塗り替えられたりした歴史というのはどこか歪で、不自然だと思う。
人間とは試行錯誤を繰り返し、少しずつ成長していく生き物だ。
過程で過ちを犯したり、迷ったりもする。
その過ちの一つが戦争という行為であるわけだが、これも人同士が傷つけあうからこそ、互いのその痛みを共有でき、戦いの後に反省や改善の余地がほんのわずかにではあるが存在するのだとクロードは思う。
クロードが元にいた世界でも人々は愚かな理由で戦争を起こし、その度に多くの血と涙を大地に吸わせてきた。
戦争のない時代など無く、常に世界のどこかで人々は争っていた。
それでも少しずつ戦争の無益さと愚かさに気が付き、戦争を起こすまいとする人々が増えてきたこともまた事実なのだ。
神の如き超越者が一方の身に肩入れし、その力で勝利させるというのならばそれはもう戦争ではなく一方的な虐殺だ。
≪九柱の光の神々≫のうちの一柱、戦神バランをその身に宿したダールベルク伯クリストフは襲い来る鬼人族の戦士たちをものともせずに、女王バラギッドの元にゆっくりと歩みを進めていく。
クリストフに近づく者は一合も打ち合うことができずにその剣圧により切り裂かれた。
この凄まじき光景にさすがの女王バラギッドも後ずさりし、その鬼人族内では美女と
クロードは≪異空間収納≫による空間を出現させ、一振りの剣を取り出すとバラギッドを庇う形で地上に降り立った。
「クロード王!なぜこの場に……」
女王バラギッドの目に映っているということは、バル・タザルが≪姿隠し≫を解いてくれたということだ。
「バラギッド、この男の相手は俺がする。兵をまとめ、撤退しろ。これはミッドランド連合王国の王としての命令だ」
女王バラギッドは何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込み、頭を下げると退却の命を配下たちに告げ、去った。
クリストフが与えた鬼人族の部隊の被害は決して小さくなく、もし追撃があったならば全員が無事本陣にまで戻ることは不可能かもしれない。
「バル・タザル、彼女たちを無事本陣まで頼む。それとエーレンフリートたちがどうやらこちらに向かってきているようだ。合流できたならアステリアに戻れと伝えてほしい」
クロードは上空のバル・タザルがいた辺りに向かってそう言うと、手に持っていた剣を鞘から抜いた。
この剣はバ・アハル・ヒモートとの戦いで深海に沈んだ≪
自らの≪神力≫を鋼に宿らせる技法により生み出された神をも殺し得る
≪神力≫や≪魔力≫の伝導率が良く、逆にこれらの力による損耗がしにくい性質がある。
「確か……、恐れ多くもクロード王などと名乗っていたな。我が国の祖がクロード一世であることを知った上でのことか? 人族でありながら、亜人どもの王となるなど、とても許されぬことだ」
ダールベルク伯クリストフは、クロードを対等の敵と認めたのか、腰を低く降ろし、両手で剣を握ったまま左上段の構えを取った。
「クロード王などという呼称になったのは偶然だ。クロード一世とやらについてもほとんど知らなかったし、王になるなど想像もしていなかった」
「亜人どもの首をすべて差し出せば、人族の命だけは助けてやってもいい。亜人どもは滅びるべき過去の遺物だ。世界が真に平和になり、一つになるために存在していてはならないのだ」
クローデン王国は財政的事情と国内の不満を外に向ける目的からこの戦を始めたのだと思っていたが、どうやらそれ以外にも何か理由がありそうだ。
「それはお前個人の考えか? それともお前に今宿っている戦神バラン、あるいは≪光の九柱神≫の考えか?」
「知れたことよ。≪光の九柱神≫は我ら人族の守護神。その御意思は創世時の失敗作であった亜人たちをこの世から一匹残らず消し去り、人族のみからなる≪世界≫を造り出すことにある。真なる平和をもたらすためには、世界をひとつにする必要があるのだ」
ダールベルク伯クリストフは、その眼に金色の気を
初対面時とは声の調子、佇まいなど全く別人のように見える。
戦神バランの
「亜人たちを滅ぼしても、人間は決して一つになどならないぞ。人族の間で新たな争いが生まれるだけだ。もし仮に肌の色、髪色、全てが同じ人種になったとしても人は争い、殺し合う。≪光の九柱神≫たちにくだらない試みはやめろと伝えるんだな」
「ほざけっ! 邪悪なる魔王め」
クリストフは
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