第305話 魔境域の支配権

クローデン王国軍はその数およそ一万とはいえども、そのすべてが王国所属の軍人というわけではない。

大半は領内で徴募した傭兵や冒険者ならずもの、領民などで、正規の軍属はせいぜい一割と言ったところだろう。


魔境域の入り口にほど近い丘陵地帯に拠点となる簡易な砦と野営拠点を造営するために、工人や人夫、酒保しゅほ商人なども集められ、辺りはにわかに活気づいていた。


丘陵の脇には使われなくなって久しい旧街道があり、魔境域への進軍路と王都からの物資の補給路を兼ねている。


この場所に強固な拠点が出現することは、これからクローデン王国軍を迎え撃たねばならないミッドランド連合王国にとっては決して好ましい状況ではなかった。



クローデン王国の魔境域征討軍を迎え撃つにあたって、クロードは新宰相のエーレンフリートら家臣団に一任することにしたのではあるが、一つだけ注文を付けた。


開戦に先立ち、ミッドランド連合王国軍の威容をクローデン王国側に見せつけることだ。


三年前の神聖ロサリア教国による魔境域侵入の時とは異なり、ただ追い返すだけでは足りない。

魔境域を支配下に置いているのが何者なのか、その領有権を宣言しておく必要があった。ミッドランド連合王国を国として認識させ、魔境域の支配権を周辺諸国全てに認めさせる。


人族に比べて人口が圧倒的に少なく、一歩間違うと迫害を受けかねない外見を持つ亜人たちが胸を張って生きていけるようにとクロードが考えたこのミッドランド連合王国のまさに門出となる大事な機会であった。



百花月ひゃくかげつの二十日。

クローデン王国軍一万の中から、五千の兵が魔境域を目指し進軍を開始したとの報を受け、魔境域北方原産の黒馬に騎乗したクロードを先頭に、ミッドランド連合王国軍三千五百が魔境域前に布陣した。


内訳は、アウラディア王国軍約二千人。ウルフェン王国約五百人。オーグラン王国六百人。グラスランド王国三百人。ヒ・メル王国百名。


全軍、各種族に適した装備を整え、堂々たる出で立ちであった。

この装備の数々はマテラ渓谷の遺跡群から発掘した大量の金属をドワーフの名工たちが腕によりをかけて作り上げたもので、質、量ともにこの世界の他国には到底真似ができない水準だった。


特にアウラディア王国は黒の軍装に統一され、おおよそ初陣とは思われぬ堂々たる威容であった。



丘陵の仮宿営地を出発し、魔境域を目指していたクローデン王国軍とミッドランド連合王国軍が会敵したのはその日の正午頃。


クローデン王国軍ははるか先で進軍を止め、布陣をするとミッドランド連合王国軍とのにらみ合いとなった。








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