第304話 新宰相の直言

首都アステリアに新しく作られた議事堂には今、ミッドランド連合王国の構成国である狼頭族の国≪ウルフェン≫、鳥人族の国≪ヒ・メル≫、鬼人族の国≪オーグラン≫、闇ホビット族の国≪グラスランド≫、他種族国家である≪アウラディア≫の各国代表者が一堂に会していた。


建国時の「九種族族長会議」を前身とするこの「構成国代表者会議」には、代表者以外にも原則、各国五人まで同伴出席が認められている。

アウラディア王国は、前年若くして宰相に抜擢されたエーレンフリート、宮廷魔道士長バル・タザル、オロフ将軍、ドゥーラ将軍がクロード王の側近として出席した。


アウラディア王国の国王にして、ミッドランド連合王国の「選王会議」で首長であることを認められているクロードが開会を告げる言葉に続けて、魔境域の南に集結しつつあるクローデン王国の遠征軍について状況を説明した。


クロードの説明を聞いた各国の代表者は一様に驚きの表情を浮かべていたものの、意外と落ち着いていた。


「急ぎの招集であったので、恐らくただ事ならぬ事態であろうと覚悟はしていた。我らオーガ族は断固戦うぞ」


≪オーグラン≫女王のバラギッドは、一際巨大な椅子から立ち上がり、気炎を上げた。


この新議事堂は様々な種族が使用できるように天井の高さ、扉の大きさだけでなく調度品もすべて特注である。


人族の基準では異様に広い、この会議室内の空間にあっても、バラギッドの声は良く響いた。


「森の中での戦闘であれば、我らに地の利がある。奴らは騎兵を使えないし、夜の森の闇は我ら狼頭族に味方してくれる」


前族長であったオロフの弟、ダルグ王が続く。


「上空からの監視と伝令は我ら≪ヒ・メル≫が請け負うぞ。数は少ないが奇襲も得意だ」

「地上は≪グラスランド≫が」


デニス王とヨウシュー王が互いの顔を向け、頷く。


「各国にはこれより直ちに戻り軍備を整えていただきたい。クローデン王国領と近接する我らアウラディアは、各国の援軍が到着する間、時を稼ぐ」


新宰相のエーレンフリートが席を立ち、諸王に呼びかけた。

クロードは席を立たず、頷いて見せた。



二日前、この会議に先立って、アウラディア王国単独の会議があったのだがその場で思いがけないやり取りがあった。


新宰相のエーレンフリートからクロードに「今回のクローデン王国の侵略行為については我らに任せていただきたい」という直言があったのだ。


「我らは問題に直面した際に、陛下のあまりに人並外れた力に頼りすぎてしまう。このミッドランド連合王国並びにアウラディアは、陛下の国であると同時に我らの国でもある。陛下の力に依存するのではなく、我らが逆に陛下を御支え出来るようにならなくては、真の国になったとは言えないと思うのです。今は亡き我が伯父オイゲンが生きていたら、きっとこのように言うのではないかと考えました。どうか発言のご無礼をお許しください」


このエーレンフリートの意見を聞いたクロードは頼もしく思うと同時に愕然とした。


皆と同じ目線で建国を進めていたはずが、気が付くと自分一人、庇護者のような立場で物事を考えるようになってしまっていたことに気が付いたのだ。


自らの力に過信していたわけではないが、自分以外の全てが非力で守るべき存在であるかに思えていたのは事実だった。

魔境域に暮らす民を守りたいという気持ちが強すぎて、過保護になりすぎていたのかもしれない。


もしかしたら、この世界の創造神であったルオ・ノタルも似たような気持であったのかもしれない。

人類を信じることができずに過剰な干渉を繰り返した。


「敵だけでなく、味方も大きな犠牲が出るかもしれないぞ」


「はい、しかし失敗しなくては人は成長できない生き物だと私は思います。戦が愚かなことであることは私も理解していますが、それ無くしては他国に対等の国家として認められないと思うのです。人知を超えた力に脅かされた時は陛下にすがる他はありませんが、人と人の間の争いはどうか我らにお任せを」


エーレンフリートの見目麗しい顔には、並々ならぬ決意と出会った頃には見られなかった知性のようなものが宿っていた。


ザームエルとの戦いの後、利き腕を負傷し、剣士としての自分を見失っていたが、紆余曲折を経て大きく成長を遂げたようである。

亡きオイゲン老の書庫に足繫く通い、剣技以外の者に目を向けるようになった。

今では国政を担う大臣たちにも意見できるほど学識が身に付いてきていると聞く。


自分はいずれ退位する考えでいたし、そうなれば彼ら魔境域の者たちだけでその後の国家運営をしていかなければならない。


クロードは今回のクローデン王国征討軍への対応をエーレンフリートたち家臣団に任せてみることに決めた。

ここは元々、彼らの≪世界≫だ。

敵であれ、味方であれ人死にが出るのを避けたかったが、それは元にいた世界の価値観の押し付けに過ぎないのかもしれない。

元の世界でも長い歴史の中で数多くの凄惨な戦争があり、人類は戦争の愚かさと無益さを知りつつも、戦争は無くなっていなかった。

多くの失敗を経て、得られる答えが同じであるとは限らないが、今はどうなるか見守ってみよう。


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