最終章 前編 異世界神統記
第301話 魔境域の変貌
アウラディア王国の建国から三年が経った。
首都アステリアは、今は亡きオイゲン老の遺した建造計画を元に、他国の都に負けぬ堅固で勇壮な星形の要塞都市として一応の完成を見た状態にある。
都市の形が上空から見て星形になっているのは意匠のためではなく、防衛戦におけるオイゲン老の工夫を盛り込んだ形であった。
侵略してくる敵兵の孤立化と弓兵による防御射撃の効果を増すという目的のためにはこの形が適しているということだった。
ミッドランド連合王国に連なる国々との間には街道が設置され、人や物の流通が盛んにおこなわれるようになった。
クロードはアウラディア王国の国力がミッドランド連合王国内で突出しすぎることがないように、狼頭族の国≪ウルフェン≫、鳥人族の国≪ヒ・メル≫、鬼人族の国≪オーグラン≫、闇ホビット族の国≪グラスランド≫にこまめに足を運び、連合王国の首長の立場で、助言を与えたり、その超常的な力で開発の手助けをするなどした。
こうした活動の甲斐あってか、各国も少しずつその種族特性と独自の文化をもった国家としての体を成しはじめ、軌道に乗り始めたところだ。
かつて恐ろしい魔物が跳梁跋扈する未開の呪われた地と人族から恐れられていた魔境域は、文明的な都市国家群が連立する
クロードはクローデン王国と魔境域の境界に当たる土地に人族の国家との流通の拠点にとなる都市の建造を思い立ち、その計画を練っていた。
人族とそれ以外の種族の間には言語や文化、そしてかつて敵味方に分かれて戦った歴史が壁となって立ちはだかっており、それらを解消するための言わば「出島」的な交流拠点が必要なのではないかとクロードは考えたのだ。
魔境域に閉じこもり繁栄を目指すという考えもなくはないが、時代の移り変わりや人口増加により、人族が魔境域を支配地にしようと考えることは十分あり得る。
土地は有限で、人間が豊かに暮らすためには必要不可欠なものだからだ。
神聖ロサリア教国の侵入があったことを思い出せば、それはそう遠くない日であるかもしれない。
クロードは、その「出島」的な都市を魔境域の窓としての役割を持たせ、交易や文化的な交流を通じて、魔境域に暮らす人々に対する偏見や恐れを取り去ることは出来ないかと考えたのだ。
これはヘルマンを見ていて思ったことだが、商人という人種は利があると思えばどのような土地へも赴くし、どんな相手とも交渉しようとする。
商売の成功のためには努力を惜しまないし、相手のことも理解しようとする。
魔境域産の珍しい特産品を仕入れることができる都市ができたなら、きっと商業都市として栄えるであろうし、人も集まる。
人族の国では見慣れない亜人種と人族が触れ合う機会を作ることで少しずつ慣らしていけたなら、魔境域の民が外の世界に自由に行き来できる時代がいつか訪れるかもしれない。
この新しい都市が姿形の異なる多人種間の懸け橋となってくれたならばどれだけ素晴らしいことであろうか。
クロードはレーム商会の会長であるマルクス・レームに、クローデン王国の国王エグモントとの会談が可能かどうか相談することにした。
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