第300話 希望航路
結局、デミューゴスを玉座の間で討つという状況にはならなかった。
万が一のため、「控えの間」には魔力隠蔽と気配遮断の結界を張り、選りすぐりの武官と白魔道士たちを密かに待機させておいたのだが、デミューゴスの話を聞く内にリスクを取らない安全策に心が傾いてしまった。
戦闘になれば少なからず犠牲が出てしまうかもしれない。
その思いが
選択を迫られた時、いつも無難な方を選んでしまう自分の意気地のなさに落胆しつつも、どこか安心してしまっている自分がいた。
この異世界に来て、少しは変われたと思っていたが、結局自分は、平和な世界で生まれ育った事なかれ主義者のままだった。
唯一の収穫は、リタにかけられていた「魔境域外への移動を禁じる」という念の込められた≪黒蜘蛛の呪印≫をデミューゴスに解かせることができたことぐらいだ。
呪印から解き放たれたリタは喜びのあまり、目に大粒の涙を浮かべて、クロードに飛び付くようにして抱き着いて、頬に口づけしてきた。
デミューゴスは、未だ≪世界≫中に身を潜めている漂流神を探し出し、一神残らず駆逐することを提案してきた。
デミューゴスの話ではこの≪世界≫にはその創世の時より、数多の漂流神が流れ着き、放置されたままになっているらしい。
土着の神々であるかのようになりすまして信仰を集めていたり、身を隠し自然界のエネルギーに
それらの漂流神たちを≪
漂流神たちをこの≪世界≫から駆逐することは、≪世界≫をあるべき健全な姿に戻すことにつながるとデミューゴスは力説する。
彼らは本来、この≪世界≫にとっては異物であり、その力と存在が少なからず≪世界≫に悪影響を与えているのだそうだ。
漂流神との戦いは、≪恩寵≫につながらず記憶の喪失を伴わないと思われるので、比較的抵抗感は少ない。
この提案におかしなところがないことは、傍らに控えさせていたバル・タザルも認めた。
希望する者を上位次元に送り出すことが可能かについては誰も確かなことは言えないようで、試みてくれさえすればいいとデミューゴスはそれ以上を望まなかった。
デミューゴスは八人の≪使徒≫の処遇をクロードに託すと、自らは漂流神たちの居場所を突き止める役割を担うと宣言し、城を去った。
デミューゴスの動向についてはルオ・ノタルを取り込んだことで、彼の身の内に宿る≪知恵と学問の神ウエレート≫と≪夜と月星の神ヌーヴュス≫の≪神力≫を常に感じることができるので、おおよその位置がわかることから≪天空視≫で監視可能だ。
とりあえず彼の思うままにさせ、問題を引き起こしそうなときは臨機応変に対処することにした。
こうして魔境域周辺の国々の情勢も一先ず落ち着きを取り戻しつつあったし、デミューゴスにまつわる事態についてもある程度のめどが立った。
バル・タザル率いる白魔道教団やエルヴィーラといった心強い協力者たちを得ることもできたし、ミッドランド連合王国並びにアウラディア王国の国政も順調であった。
クロードの前途は、暗黒の海を当てもなく漂う状態から、今考えうる限りで望ましい航路に乗りはじめたように思われたのである。
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