第298話 舌

試してみるか。


クロードは玉座から立上り、片膝をつき控えるデミューゴスに向かってゆっくりと歩き出した。


「クロード王陛下? 」


シルヴィアが怪訝そうな声を上げ、その場にいた全員が驚いたような顔をした。


あくまでも無表情を装い、心の中で、口に出さずに音読する要領で『デミューゴスを今ここで倒す』と唱えながら、一歩一歩進んでいく。

どの程度で反応があるか。


クロードは一瞬の、どんな変化も見逃すまいと集中した。


「くくくっ」


デミューゴスが突然、こらえきれない様子で突然、大笑いを始めた。


「もう、やめよう。。茶番はもうこりごりだ。君はアガタが死んで、私が≪読心≫を得たと思っているんだろう。それだけの力を持ちながら、本当に憶病だな、君は! そうだよ、アガタを殺し、≪読心≫を含む全ての能力を得た。どうだ、これで満足か。何度も言っているが僕はもう君に敵対する気はない。これはもう僕にとって勝ち目の全くないゲームだ。君に圧倒的に有利なルールで、もしいるならば審判だってきっと買収されている。しかも圧倒的な実力の差があるにもかかわらずにだ」


「何万年、いやおそらくもっとか。この世界の創世神たるルオ・ノタルすら欺き続け、思いのままに全てを操ってきたお前を恐れるなというのが無理な話だ。お前を信じたものは全て裏切られ、酷い結末を迎えている。自分の行いの悪さを悔やむんだな」


「過大評価というやつさ。いいか、僕はもう君に対して、何一つ隠し事も企てもしない。僕は確かに喰らった相手の≪知識≫の一部と≪能力≫を全て奪うことができる。だが、これらの力は全て加算されるわけじゃあないんだ。君と違ってね。アガタの≪読心≫を使うには一度、アガタにならなければならない。僕の特性を明かしてしまうが、これは≪変異≫あるいは≪変身≫と呼ぶべきものだ。本物以上にはなれやしない。もし君をどうこうしようというのなら、君以上の化け物を喰らう必要があるがそんなのは無理だ。そんな化け物はいやしないからね。僕は君と違って、気が遠くなるような年月をかけて少しずつ今の力を得たんだ。それでも、この今の体、≪黒魔道の深淵≫と呼ばれ、恐れられていたグルノーグを超える強さの個体など出会うことは出来なかった。こと戦闘に関しては凡百の神をもしのぐ魔道の大天才だよ。グルノーグは魔力量こそ、そこにいる白髪爺に劣るものの、倒した漂流神の≪神力≫をストックし、一時的に自らの魔力に取り込むなどの秘術を編み出していたし、その力はそこいらの死にぞこないの神など相手にならぬほどだった。僕はこの体を使い、少しずつより強い個体になり、ルオネラをいずれ取り込むつもりでいた。だが、君の登場によりすべてが狂った。ルオネラを取り込んだところで、君に勝てやしないし、何よりそれを全て納めるだけの器に僕がまだ至っていなかった。ルオ・ノタルが生み出した≪九柱の神々≫も二神ほど取り込んではいるが、≪神力≫の差が大きすぎた。おそらく君に横取りされた天空神ロサリアを喰らうことができていたとしても、おそらくルオネラを身の内に納めることまではできなかっただろう。神を喰らうためには少なくともそれなりに近い器の神に≪変異≫しなければならないからね。どうだい、わかっただろう。この亀のように愚鈍で地道な努力を僕は続けてきたんだ。少しずつ、少しずつ自分の器を大きくするためにね」


もはや君臣ごっこもやめてしまったらしい。

立上り、興奮した様子で長広舌ちょうこうぜつを続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る