第297話 読心

クロードとデミューゴスのやり取りにその場にいた家臣団のほとんどは動揺を隠せないようであった。


無理もない。

元の世界と比べても、この異世界では人々の神に対する信仰心や畏敬の念が強い。

三百年ほど前には実際に神々の闘いに、人類も加わり、その存在に直に触れた歴史もある。

神々が創造した精霊とあらゆる自然界の現象を通して感じ、中には心通わせ交信できる者も存在する。

人知を超えた力を持つ存在との距離が元の世界より近い分、現実的なおそれが人々にはあるのだ。


ルオネラを信奉し、共に敗れることになった魔境域に暮らす民にとってもそれは同様で、大いなる失望と共に信仰を失いつつあったとしても畏れまでは消えていないのだ。


片や神に成り代わることを勧め、片や神の必要性自体を否定する。


敬虔なる信者が耳にしたならば、卒倒してしまうような冒涜の極みであろう。


「話が少し横道にれてしまったな。ひとまずアヴァロニア帝国の件、ご苦労だった。この後、少しデミューゴスと話がしたい。シルヴィアとバル・タザル、そしてリタとゲイツ以外は少しの間、外してくれるか」


クロードの言葉に、居並ぶ家臣たちはまるでそういう予定であることを通知していたかの如く大人しく従い、隣の「控えの間」に下がっていった。



「さすがクロード王陛下。家臣たちを良く手なずけておられるようですね。私も配下の扱いには苦慮しておりまして、先日も一人、つい怒りに任せて殺してしまいました。流血の伴わない人心掌握の秘訣などを、是非伺いたいものです」


がらんとしてしまった玉座の間に、デミューゴスの通りの良い声が虚しく響く。

この場に残っているのは、クロード、シルヴィア、バル・タザル、リタ、ゲイツ、デミューゴス、そして八人の見知らぬ顔の男女だけだった。


「お前が連れてきたその八人は≪異界渡り≫、≪使徒≫だな。それで全員か?」


「はい、かねてからの仰せの通りに。心配性な陛下のことですから、大方、そこにいる裏切り者のリタとゲイツの≪鑑定≫でこちらの戦力を丸裸にしてしまうというお考えだと思い、生きている者は全員連れてまいりました。要らざる疑念を抱かれては困りますからね。最大で十三人いた≪使徒≫も、今や麾下に残る者はこの八人になってしまい、非常に寂しい限り。もしご所望なら八人全員、陛下にお譲りいたしますよ。もはや私にとっては不要なのでね」


クロードはその八人の顔を順に眺め、ある事に気が付いた。


「確かアガタという女の≪使徒≫がいたはずだが?」


「おお、さすが陛下。覚えておられましたか。確かにあれは殺すには惜しい美女でしたからね。そんなにご執心であったなら献上すべきだったかな? 先日配下を一人殺してしまったという話。それが実は、アガタでございました」


デミューゴスの銀仮面の下の口が歪んだ笑みを浮かべた。


神聖ロサリア教国の教皇庁で出会った≪聖女≫アガタ。

彼女は確か、≪読心≫のスキルで人の心を読むスキルを持っていたはず。


考えたくはないが、デミューゴスがアガタを、≪読心≫のスキルを得た可能性はないだろうか。


≪読心≫のスキルが及ぶ範囲がどの程度の距離であったのかわからないが、少なくともアガタに心を読まれたと思われる瞬間はごく至近距離であった。


玉座からデミューゴスがいる場所まではかなりの距離があるが、今、俺の心は読まれているのか?


いずれにせよ、≪読心≫のスキルをデミューゴスが所持しているかどうかで今後の対応を変える必要がでてきたのは間違いなかった。

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