第295話 特殊任務

大魔司教ことデミューゴスは、今後一切の敵対行為並びに供物を伴う儀式等の反人道的行為の一切をとらないことを誓い、クロードに対して臣下の礼を取った。


そのデミューゴスに対して下した最初の命令は南の強大国であるアヴァロニア帝国とクローデン王国の戦争の終結であった。


デミューゴスはアヴァロニア帝国内における暗躍とはかりごとの数々をあっさりと認め、「放置しておいても何も問題はないと存じますが、敬愛するクロード王陛下のため」と嘘くさい台詞を残し、一礼すると虚空に消えた。



ルオ・ノタルの力を継承した者にあくまでも付き従いたいという意思を持つエルヴィーラにはこれまで通りアヌピア都市遺跡にある≪箱舟≫の管理と≪世界≫を監視し、起こった異変をいち早くクロードに知らせるという役割を与えた。


≪肉獄封縛≫により再び人の肉体を得てしまったので、世界全体を見渡すような超感覚は閉じてしまった。

せいぜい≪天空視≫で表層を眺めるので精いっぱいなので、情報の収集を担ってもらえると非常に助かる。


そしてエルヴィーラの配下であるオディロンにはある特殊な任務というか、お願い事をすることにした。




「お父様……」


目の前に突然現れた父オディロンの姿にオルフィリアは身動きすることを忘れてしまったかのようだった。

透明感のある青い瞳からは涙が溢れ、肩は小刻みに震えていた。


オディロンは優し気な笑みを浮かべ、両腕を広げて見せた。


戸惑うオルフィリアをエドラたちパーティメンバーが背中を押す。


「お父様!」


オルフィリアが駆け出し、そのままの勢いでオディロンの胸の中に飛び込んだ。


「オルフィリア、苦労をかけた。クロードさんから聞いたが、こんな魔境域の危険な区域まで私を探しに旅を続けていたそうだね」


「うん、いいの。お父様さえ生きていてくれたなら」


「私もオルフィリアに会えて嬉しいよ。随分と逞しくなった」


オディロンがオルフィリアの肩越しに、これでいいのかとうかがうような目でこっちを見ている。



オルフィリアの作られた記憶の通りに父親として会ってほしいというクロードの頼みに対して、オディロンは最初ひどく難色を示した。

柄じゃないとか、子供を持ったことがないので年頃の娘に対してどう接していいかわからないなど、様々な理由をつけて断ろうとしたのだ。


クロードはそれを半ば脅すようにして無理矢理引き受けさせた。


茶番と言えば茶番かもしれない。

だが、いかに人工的に造られた存在とはいえ、オルフィリアは確かに生きて存在している。


この異世界に来て初めて会った存在で、恩人でもある。

妹がいたらこんな感じだろうかと思うほどに大事な存在であるし、図らずも王となってしまった今は、身分を考慮せず気さくに話せる仲間でもある。


そのオルフィリアに真実を突き付けることで、傷つけたくはなかったのだ。









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