第288話 原子魔導炉由来

海底で身動き取れなくなっているバ・アハル・ヒモートを見て、ふと疑問が浮かんだ。


これまで遭遇した漂流神たちは物質の肉体を持っておらず、受肉していなかった。


物質の肉体を持つメリットはそう多くない。


自我を持った≪神力≫の塊である≪神≫を常人は目視することすら困難だ。

受肉することで生物に視認されることになり、コミュニケーションをとりやすくなる。

あとはせいぜい≪神力≫の節約ぐらいであろうか。


≪神力≫を消費する≪御業みわざ≫により物質界に干渉することは可能だが、これは効率が悪い。

≪神力≫でできた体は物質界の如何なる力の法則も及ばず、全てのものを透過してしまうので、小石一つ摘まみ上げるにも≪神力≫を消費する何らかの方法を用いなければならない。


人として生活をするなど、長期間にわたり物質界に関りを持つのであれば、物質の肉体を創造し、受肉する方が≪神力≫の消費を抑えられるが、一方で、受肉した状態では≪神力≫の行使に著しい制約を受けてしまう。


バ・アハル・ヒモートが物質の肉体を持つに至った理由は何だろう。


衆人にその姿をみとめさせるためか、はたまた物質界において為さなければならないことがあるのか。


先ほどまでのクロードもそうであったが、巨大な金属塊すら押しつぶしてしまう深海の大水圧によって身動き一つできなくなっているバ・アハル・ヒモートの姿を見ると疑問しか湧いてこない。


『名も知らぬ同胞はらからの神よ。助けてくれ』


すぐ目の前まで接近したクロードに響いてきたのは言語というより意味を持った≪念波≫のようなものであった。


『助けてくれとはどういうことだ。俺の言っていることが伝わっているか?』


クロードは自身に向けられた意思疎通の≪念波≫のようなものを真似てみた。


『伝わっている。聞いてくれ、我は騙されたのだ。この世界に住む取るに足らぬ小人の勧めるままにこの得体のしれないエネルギーを身の内に取り入れたが誤りであった。この≪神力≫にどこか似たまがい物の力は、我の手に余す。近くにあった奇妙なる≪神造神しんぞうしん≫を不完全な形ではあるが取り込むことでようやく封じている。だが、それも時間の問題だ。このままでは、この惑星ごと我も消し飛んでしまう』


どうやらこの≪念波≫というものは俺にも使えるようだ。

魔道士たちが使う≪念話≫とも類似点はあるが、これは術ではなく、肉体における声の様に≪神様態しんようたい≫あるいは≪神≫として元々備わっている機能の様なものだった。

神々の共通する意思疎通の手段とでもいうべきものだろうか。

使えるという事実に気が付くことで普通に発することができた。


『お前が消えるのは構わないが、この世界を巻き込まれては困る』


『つれないことを言うな。もともとはといえば、復権すべく≪神力≫が豊富に得られそうな≪世界≫を物色していた我をここに呼び寄せたのはこの≪世界≫の住人だぞ。この得体のしれないエネルギーは≪魔力≫とかいうこの≪世界≫にしかない疑似ぎじ≪神力≫とでもいうべきものから、さらに≪神力≫に近づけたもので、得られれば信仰に寄らなくても≪神力≫を増すことができるという話であったが、全くの虚言であった。このエネルギーはいくら取り込もうとして≪神力≫とは馴染まぬ。われの残り少ない≪神力≫と≪神造神しんぞうしん≫に残されていた≪神力≫をぎしてようやく封じ込めているが、それでも足りずこの世界の物質の殻を必要とした。恐ろしい力だ。神々の禁忌きんきにすら触れかねない忌むべき力。その力が今我の≪神核しんかく≫をも徐々に蝕もうとしている』


この初対面の異邦神の話をどこまで信じて良いものやら、クロードは図りかねていた。


デミューゴスがバ・アハル・ヒモートを呼び寄せたのだという話と矛盾は無いし、受肉して物質の体を持った理由が内包した原子魔導炉由来のエネルギーを封じ込めるためなのだとすると一応つじつまが合う。

魔物を大量に発生させ、近付けないようにしたのは戦闘による衝撃から誘爆ゆうばくを防ぐためといったところだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る