第286話 海中

いまいち何に使うのかよくわからない≪異空間収納いくうかんしゅうのう≫と≪鑑定眼(全技能)≫を記憶と引き換えに得た後、また例の『ステータスに重大な異常を検出。精密検査と軌道修正のための修復が必要です。指定場所に向かい、必要な処置を受けてください』というメッセージが脳内に響く。


その後に浮かび上がってきた現在地点と指定場所を知らせる地図のようなものについては、前回よりは心の準備ができていたのでおおよそ把握することができた。


場所は魔境域北西部にある鬼人族の国≪オーグラン≫の国境近い森林地帯だった。


オーグランはミッドランド連合王国の構成国のひとつなのでそこに行く分には問題はないが、今はひとまずそれどころでは無い。



バ・アハル・ヒモートの金属で覆われた肉体と自分の肉体の比重の差であろうか。

沈下速度に差があるので、こうして突き刺した剣と≪機械神ゲームマスター≫の首に必死にしがみ付いていなければ浮き上がってしまう。


特に計算していたわけではないがこの地点の海底は深く、沈むほどに全身にきしむ様な水圧がかかり始めた。


ふと思いついて石神業の≪部分鉱石化≫を使ってみた。

どうやら、部分というのは肉獄封縛で作られている肉体部分以外の部位をさすらしく、全身のおよそ三分の一程度が鉱石化可能であるようだった。

だが鉱石化できるのは自分が知る、この異世界に存在する天然の鉱石に限られるようであったので断念した。

自然金は比重こそあるが硬度に難があり、逆にダイアモンドでは比重が軽すぎる。


そもそも全身の硬質化が不可能なのであれば、あまり有効な手段ではないことに気が付き、内心舌打ちした。


辺りがにわかに暗くなり始めた。


光が届かない深さになったようだ。


天空神業の≪発光≫で照明代わりの発光体を作り出し、それを海底の先の方へ移動させる。


これで視界は確保されたが、あとはこの肉体が推進何メートルまで耐えられるかだ。

いや、そのまえに呼吸が持たない。

常人よりははるかに強い肉体であることは間違いないがそれでも限界は来る。


肉体の死が、この異世界における自分の存在の死につながらないことは過去二回肉体を失った経験上、わかっているがそれでも死の恐怖が消えるわけではない。


焼死、感電死の後、今度は水死か。


そのようなことを考えているとバ・アハル・ヒモートが脈打つように動き始めた。

赤子のような形状の口から大量の気体が漏れ、次の瞬間、再び胴体部分から無数の何かが発射された。


魔石だった。


魔石は妖しい光を放ちながら、魔物の姿に変化していく。


形状を見るに、魚や海洋生物を彷彿とさせるヒレや水かきなどの部位をもつ魔物が多かった。

十本を越える足を持つイカのような魔物や牛のような角を持つクジラのような巨大な魔物もいる。

多種多様。

海底の闇の中、さながら照明代わりの発光体の光に浮かび上がった不気味な魔物たちの姿はまさしく海底を地獄のような風景に変えてしまったように思える。


これ以上の≪恩寵おんちょう≫は避けたいので、≪神雷しんらい≫などの大規模になりそうな攻撃手段をとりにくくなってしまった。

魔物の大量死は、大量のレベルアップにつながってしまう。


海中に現れた無数の魔物たちが一斉にクロードに向かって殺到し始めた。




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