第284話 分断誘導

クロードは≪飛翔≫の速度を上げつつ、バ・アハル・ヒモートの正面に一気に接近した。


エルヴィーラの言葉通り、周囲にまき散らされた魔物たちは「バ・アハル・ヒモートに近づく者」、すなわちクロードの元に殺到してきた。


クロードはバ・アハル・ヒモートの眼前で着地すると自らの頭上に巨大な≪次元回廊≫の≪入口≫を作った。


羽を持ち移動速度に優れるタイプの魔物たちがクロードを目掛けて上空から殺到してきたがその間に作られた巨大な≪入口≫に次々、飛び込んでいく。


≪出口≫の設定は、≪天空視てんくうし≫で確認したこの惑星の北の果て。

地球で言えば、北極に当たる場所だ。


人や生物が少なく、しばらく魔物を放置しておける場所。


≪出口≫を大気圏外にすることも考えたが、魔物たちがもし死滅してしまった場合、大量の経験値により≪恩寵レベルアップ≫が発生してしまう可能性があったのでそれは避けた。


クロードは地上の周囲四方から迫りくる魔物たちを同様に≪次元回廊≫の入り口を展開させ、北の最果てに送りこみながら、バ・アハル・ヒモートの赤子のような本体の顔部分に近づき、跳躍ちょうやくすると≪神鋼しんこうの剣≫をその額に突き刺した。


神鋼しんこうの剣≫は、バ・アハル・ヒモートの金属のような外皮をやすやすと突き破り、少し動かしただけでも容易くその傷口を広げていく。


まるでクロードの意思をくみ取っているかのように鞘に納まっている時とは異なる≪魔力≫とも≪神力≫とも言えぬ異様な気のようなものを発し、それによって金属の持つ硬度と切れ味に寄らない切断力を発揮していた。


しかもクロードの身の内にある≪神力≫がいとも容易く伝導されてしまい、加減しなければバ・アハル・ヒモートが体内に抱え込んだ原子魔導炉のエネルギーを暴発させかねない状況だった。


クロードは慌てて≪神鋼しんこうの剣≫を引抜き、後方へ飛び退く。


バ・アハル・ヒモートの額の傷からはどす黒い液体が漏れ出て、その表情に変化が起きた。


先ほどまでわずかにしか開いていなかったバ・アハル・ヒモートのまぶたが大きく見開かれ、その巨大で赤い二つの目玉がクロードを睨む。


そして続けざま大気を震わす咆哮ほうこうをあげた。


身辺の守りを自らが生み出した大量の魔物たちに任せるばかりだったバ・アハル・ヒモートがようやく俺を敵として認識してくれたようだ。


いいぞ。

向かってこい。


バ・アハル・ヒモートは口から件のエネルギーと思われるものをクロード目掛けて放出し、自身も大地に足をとられながら、前のめりに突進してきた。


地響きと共に、辺りに砂煙が舞う。


クロードは放射状のエネルギーを避け、まるで動く城のようなサイズのバ・アハル・ヒモートが通れるほどの未だかつてない大きさの≪次元回廊≫の入口を出現させた。


魔力塊から大量の魔力を消費するのを感じる。

出入口の大きさ、移動距離。

これまで試みたことのない規模の≪次元回廊≫だった。


枯渇とまではいかないがおよそ大半の魔力を一気に失った反動で、軽い疲労感と眩暈めまいを感じた。


勢い余ったバ・アハル・ヒモートが≪次元回廊≫の巨大なゲートの先に消えたのを確認し、クロードは自らもその中に身を投じた。


狙っていたのはバ・アハル・ヒモートと魔物たちの分断。

そして原子魔導炉由来のエネルギー暴発による被害を最小限にできる場所への誘導だった。


この場所に残った魔物たちへの対応はエルヴィーラたちに任せよう。


≪次元回廊≫の出口からでると、そこは空中であった。


眼下には一足先ひとあしさきにバ・アハル・ヒモートが来ていた。


大きな水しぶきを上げたかと思うといささかの浮力も感じさせることなく沈み始め、もはや背中から突き出た≪機械神ゲームマスター≫とやらの上半身しか見えなくなった。



クロードがバ・アハル・ヒモートとの決着の場に選んだのは、見渡す限り陸地の見えぬ大海の洋上であった。

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