第283話 最優先命令

「クロード様、この魔物たちに与えられた最優先の≪命令オーダー≫は、「バ・アハル・ヒモートに近づく者の排除」のようです。各地への魔物の拡散は今のところは心配ないかもしれません」


地面に転がる魔物の死体を調べていたエルヴィーラが声をかけてきた。

どうやら体内の魔石から≪命令オーダー≫を読み取れるらしい。


それにしても「近づく者の排除」とはどういうことだろう。


近付かれたくない理由が何かあるのか。


クロードが思考をめぐらしながら、魔物をいなしていると白いローブをまとった少年が空中より現れ、魔力を具象化して作ったと思われる無数の矢で周囲の魔物を射抜いていく。


「クロード様、到着が遅れて申し訳ありません。私の名はフィンです。導師シルヴィアから≪念話≫で、こちらに向かう様に指示されました」


どうやら白魔道教団の魔道士らしい。

歳は若そうだが魔力塊に秘める魔力量を見てもそれなりの実力者であることがわかる。


木っ端こっぱ魔道士風情が何しに来た。小僧の出る幕などないぞ。失せろ」


デミューゴスがあざけるような様子で言った。

両者が一触即発の雰囲気になるが、正直、この白魔道士の少年フィンとデミューゴスから感じる魔力量は比較にならないくらいの差があった。


魔道士同士の闘いは魔力量の多寡が勝敗のほとんどを決めてしまうというバル・タザルの言葉が正しいとするとおそらく勝負にすらならないだろう。


大魔道士と称されているらしいエルヴィーラの魔力量でさえ、デミューゴスと比べれば少し見劣りしてしまう。


だが、デミューゴスがフィンを露骨に邪険にしているところを見ると、エルヴィーラと結託されては厄介というぐらいの存在ではあるのかもしれない。



「デミューゴス、お前の提案は申し訳ないが受け入れられない。もし、協力する気があるなら、エルヴィーラたちと共に魔物たちがマテラ湖を越えていかないように手を貸してくれ。あの怪物は俺が何とかする。考えがあるんだ」


「クロード君、正気か。失敗したらどうするつもりだ?」


「その時は俺ごと封印すればいい。本当は最初から、そのつもりだったんじゃないのか」


「まさか、私は心から君の友になろうと……」


「お前がこの先敵対するつもりなのか、今回の件で見極めさせてもらう。エルヴィーラ、フィン。デミューゴスが妙な気を起こしたら≪念話≫で知らせてくれ」


クロードは、デミューゴスの言葉をさえぎり、一方的に言い放つと女神ロサリアから得られた天空神業の≪飛翔≫でバ・アハル・ヒモートのいる方へ飛び出した。


クロードの周りに空気の流れが起き、進みたい方向に体が押し出される感覚があった。


浮遊ではなく、あくまで飛翔。

体が浮力を得ているのは重力の影響を受けていないからではなく、あくまで大気中の気体を自在に操り、移動するわざであるようだった。


初めて使った≪御業≫だったが、割と大雑把なイメージでもなんとか飛ぶことだけは出来そうだ。


もっとも速度や進行方向を細かくコントロールするとなるとそれなりの練習を要しそうではある。


≪次元回廊≫で一気に移動しなかったのには理由がある。


「バ・アハル・ヒモートに近づく者の排除」という≪命令オーダー≫を刻まれた魔物たちの動きを見るためである。


飛行可能な魔物たちはバ・アハル・ヒモートに真直ぐ向かってくるクロードに反応を示し、すぐさま周囲に集まってきた。


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