第281話 友

「フフン、まあ、そう目くじらを立てるなよ。お前だって、ルオ・ノタルと結託して口に出すのもはばかられるようなことをしてきたのを私は知っているぞ。クロード君の前で全部洗いざらい暴露したっていいんだ。いいか、過去は過去だ。大事なのはこれからだ。俺はクロード君に今後一切隠し事はしない。友達というのはそういうものだそうだからな」


「貴様があの漂流神を呼んだというのは本当なのか」


エルヴィーラが語気を強める。


「そうだ。原子魔導炉の危険性をルオ・ノタルにわからせるために、≪外界≫を彷徨っていたバ・アハル・ヒモートと≪交信≫し、この≪世界≫に呼び寄せた。もっとも古代エルフ族の若き族長に成り済まし、原子魔導炉の推進を進めていたのもこの私だがな」


デミューゴスの骨格が変形し、エルヴィーラや≪箱舟≫内部でみた筒形のタンクの中の人たちのような種族的特徴を示し始める。

成り済ましていたという古代エルフ族の族長の姿なのだろうか。

手足は伸び、後頭部は後ろに大きく発達し、その顔も全く別人になった。

服装も司教服から、朱色のローブへと変わった。



「貴様のせいで何十万人もの同胞とエルフ族が犠牲になったというのか」


「お前たち古代エルフ族が目障りだったからな。貴様らは人族と違い、その長い寿命のせいか、交尾をあまりしない。繁殖力が弱すぎる。その上、高度な文明に寄りかかり、神への信仰を薄れさせていった。当時まだ、ルオ・ノタルに力をつけさせ、この最下層次元の掌握をさせようと考えていた私にとって、邪魔者以外の何物でもなかった。貴様らはルオ・ノタルの操り人形の様にこびへつらうことでそれなりの信用を得ていたし、方針を変えさせるにはこれが一番手っ取り早かった。まあ、結局、ルオ・ノタルは神々との相次ぐ闘争の果てに落伍し、見限ることになったがね」


「それで、ルオ・ノタルの次は俺というわけか」


今にも暴発してしまいそうなエルヴィーラを制し、クロードはデミューゴスの前に出た。


デミューゴスはグニャグニャと自身の形を変形させ、元の白い司教服姿の美青年に戻った。


「正解。クロード君が私の期待を裏切らない限りは、全力で君に協力するつもりだよ。お望みなら、私も臣下の礼をとったっていい。ご所望のルオネラだって、喜んで差し出すよ」


≪危険察知≫にも今のところ、デミューゴスからの悪意や敵意のようなものは感じない。

バ・アハル・ヒモートとかいう漂流神のなれの果てからも同様だ。


だが、こういったスキルの認識を阻害するスキルの存在も可能性としては有り得るので油断は禁物だ。


デミューゴスに対する警戒は引き続き行うとして、まずはあの巨大な怪物を先にどうにかしなくてはならない。


デミューゴスの茶番のような話にいつまでも付き合っている場合ではない。

クロードは、話を打ち切り、バ・アハル・ヒモートの方へ向かおうとした。


「待ちたまえよ。話はまだ終わっていない。何のためにここまでわざわざ来たと思っているんだ。バ・アハル・ヒモートには、力ずくの正攻法は通用しないぞ」


「どういうことだ? 」


「あの怪物がため込んでいる原子魔導炉由来のエネルギーは人間だけでなく、全ての生物にとって有害だ。ルオ・ノタルが封印という手段を選んだのはそのためだ。この場所であいつを倒そうものなら、クロード君の大事な王国だけでなく世界の大部分に多大な影響が出てしまうぞ。もっとも、ここにいる三人は大丈夫だろうがね」


デミューゴスはお道化どけた様子ながらも、「どうだい。私の力が必要だろう」と言わんばかりな視線をクロードに向かって送ってきた。






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