第280話 機械

何を考えているのかわからないが、こちらから出向いていく手間が省けた。

別に好き好んで争うわけではないが、放置しておくには危険すぎる存在だった。


このルオ・ノタルの≪世界≫の混迷を引き起こした張本人であり、供物と称し多くの人間の命を平気で踏みにじる。他にも怪しげな実験や自らの目的のためには非人道的な手段をとることを少しも躊躇ためらわない。


相容れる余地のない怪物。

そういう印象だった。


クロードは腰に下げた≪神鋼しんこうの剣≫を抜き、刃先をデミューゴスに向けた。


「おいおい、待ってくれよ。そんな物騒な物をこっちに向けるな。気が付いてないかもしれないが、その剣はお前の≪神力≫を帯びて、お前の一部と言っても過言ではないほどの力を秘めてるんだ。漂流神程度なら、十分殺し得る。わざわざ加勢してやろうと思ってやってきた友人を君はその手にかける気か? 」


「お前のような奴を友人に持った覚えはないぞ」


「確かに最初の出会いは最悪だったかもしれないが、互いを理解し合えば私たちは親友にだってなれる。こう見えて、私たちは似ているんだよ。神々の織りなす≪運命≫のくびきあらがう同志だ。それに今は少しでも戦力が多い方がいい。違うか? 」


デミューゴスはまるで舞台の上の役者の様に芝居がかった仕草で訴えかけてくる。


「クロード様、惑わされてはなりません。この男の言葉は全て虚言。この男の心のうちにあるのは、はかりごとと裏切り」


「黙れ、神の操り人形ごときが、余計な口をはさむな」


デミューゴスとエルヴィーラが睨み合う。

エルヴィーラの魔力塊から、魔力があふれ出し、場に魔力の力場が発生する。


「まて、落ち着け。別にお前など私の敵ではないが、今日は争いに来たわけじゃない。この≪世界≫を揺るがす脅威に共に立ち向かおうという善意を踏みにじる気か。あれを見ろ、事は一刻を争うぞ」


デミューゴスが、金属の外皮を持った巨大な怪物の背を指差す。


先ほどまで何もなかった背の部分に大きな瘤のような盛り上がりが出来ており、次第にそれは熟れた果実の様に割れて、中から異形いぎょうの何かが現れた。


頭部には三つの目を持ち、二つの豊かな乳房に、四本の腕をもった人型の機械のような上半身。

それだけで十分な大きさであるのだが、それが金属塊のような赤子の怪物の背から生えてきている。


「そんな……なぜあれがあのような場所に」


エルヴィーラの顔に動揺の色が浮かぶ。


「エルヴィーラ、あれはなんだ。知っているのか?」


「あれは、紛れもなく≪機械神ゲームマスター≫だよ。かなり昔に創られた型落ちだけどね」


デミューゴスが横から口をはさむ。


「確かに、マテラ・アズクナルの地下には、使われなくなった≪機械神ゲームマスター≫のうちの一体が保管してあった。高度に発達した旧エルフ文明においては、それ以上の人類の強化、すなわち≪恩寵≫の重要性が低くなり、≪経験値≫を持つ魔物を生み出す必要性が無くなったので起動を停止していた。しかし、それがなぜ……」


エルヴィーラは信じられないものを見るように怪物の背に生えた物体を見つめている。


「あの異邦神の名は、バ・アハル・ヒモート。確か、重力を多少操れる程度の下級神だった気がしたが、原子魔導炉の稼働エネルギーと休眠中だった≪機械神ゲームマスター≫を取り込んで化けたね。機械神とはいってもれっきとしたルオ・ノタルの力を組み込んだ神に次ぐ存在。あれらを取り込んだとなると非常に厄介だよ」


「あの異邦神の素性にやけに詳しいではないか!」


「まあね。バ・アハル・ヒモートをマテラ・アズクナルに呼び寄せたのは、この私だからね」


怒りに満ちたエルヴィーラの問いかけに、デミューゴスは他人事の様に答えた。

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