第277話 縦揺後強横揺後

時間にすれば、ほんの数分というところであろうか。

下から突き上げてくるような揺れを感じ、その後さらに強い横揺れに変わった。

目の前のオディロンたちが自力で立っていることができないほどで、周囲の壁に取り付けられた無数のモニタや機器が先ほどの損傷の影響もあって、外れて落ちたり、傾いたりした。


エルヴィーラは再び≪障壁≫を張り、オディロンともう一人の若者をかばっている。


やがて少しずつ揺れが収まってきた。


「エルヴィーラ様、今の揺れは一体何だったのでしょうか」


「私にもわかりません。この周囲に魔力的な反応は感じなかったので、恐らくは物理的な揺れだとは思います。ここの設備がこの有様でなければ、確かめようもあるのですが……」


「デミューゴスの仕業でしょうか」


オディロンの問いに、エルヴィーラは「あるいは、そうかもしれません」と言うに留まった。


この会話を聞きながら、クロードは自身に起きたある変化に気が付いてしまった。


ルオ・ノタルを取り込んだことによる影響なのであろうか。

クロードには、デミューゴスの居場所も、隠れ潜んでいるという残りの≪九柱の光の神々≫の居場所も手に取るようにわかるようになっていたのだ。


それだけではない。


大小さまざまな≪神力≫の存在を、この惑星のあちらこちらに感じるのだ。

ルオ・ノタルや≪九柱の光の神々≫とは明らかに異なる雰囲気の≪神力≫。

この≪世界≫の異物と思えるような違和感を伴った力だった。

火神オグンや石神しゃくじんウォロポのようにこことは違う≪世界≫から流れ着いてきた漂流神の類であろうか。


そうして≪世界≫の各地に存在する≪神力≫の塊の中でもひときわ大きく歪な存在が、このアヌピア都市遺跡から、そう遠くない場所で鳴動しているのを感じる。

いままでどの神からも感じたことのない膨大な量の≪神力≫でできた殻ようなものの中に魔力のようなエネルギーを内包したおおよそ他とは一線を画する特異な存在。


クロードは≪世界≫の全体像を思い浮かべ、その特異な存在の所在を探った。

かつて森の精霊王エンテと視野を共有した時に近い感覚で、この≪世界≫の隅々すみずみまで探ることができるようになっていた。


魔境域の先にあるマテラ湖のさらに先。


かつて、大規模な調査隊を組織して、発掘作業を行ったマテラ渓谷遺跡群の中心地に空いた大穴の底に、は確かに存在していた。


全身を覆う金属の外皮。小さな山を見下ろせるだけの巨躯きょく

まるで赤子のような、巨大な頭部とそれを支えるのに不十分だと思える身体。

そして落ちくぼんだ眼窩がんかの中で、赤く光る両の目。


まさしく異形の存在だった。



「エルヴィーラ、マテラ峡谷の辺りに≪神力≫を持った巨大な怪物がいる。さっきの地震はそいつが地上に出てきた時のものらしい」


クロードはエルヴィーラの方を向き、見たままを告げた。

長きにわたりルオ・ノタルの側で、この≪世界≫を見守り続けてきた彼女であれば何かわかるかもしれない。


「マテラ……、≪神力≫を持った怪物……、そんなまさか。ルオ・ノタル様の封印の効力が切れるのはまだかなり先であったはず」


エルヴィーラの白い顔が、一層青白くなっていたように見えた。



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