第266話 罰

≪次元回廊≫の出口から、屋上に降り立つとそこには発展した文明とは不似合いの祭壇としか呼びようのない石造りの台があり、その上には円筒形の容器が七つと大きな球状の何かが置いてあった。


球状の何かについては、思い当たる節がある。

形こそ加工されており、違っているが半透明で独特の淡い光をたたえた見た目は、マテラ渓谷の遺跡群で発見した魂結晶ソウル・クリスタルと酷似している。

円筒形の容器は魂結晶ソウル・クリスタルらしきものが置かれた台座と複数の管で繋がれており、上部にはめ込まれた透明な板のその奥はあたかも人間の心臓の鼓動の様に明滅を繰り返している。


中央に魂結晶ソウル・クリスタルの玉が置かれ、その周囲に並べられた円筒形の容器が配置されている祭壇の前には長い耳を持ち、異様に後頭部が発達した見た目の種族の女性が立っており、上空に現れた巨大な顔のようなものを見上げている。

エルフを彷彿させはするものの、先ほど見た幻影のような通行人たちとも違う、別の亜人と言って良いほどの差異がある。


女性の後ろにはさらに三人の同様な外見的特徴の者たちがおり、彼らは皆一様に深刻そうな表情を浮かべていた。


彼らは、突然現れたクロードの姿に驚きもせず、気が付いた様子すらもなかった。

どうやらこれは立体的な映像のようなもので、いつの時代のことかは見当もつかないが、過去の光景を映し出しているにすぎないのではないかとクロードは思った。



「エルヴィーラよ、急ぎなさい。このアヌピアに与えた≪箱舟≫に一人でも多くの民を収容するのです。マテラ・アズクナルの原子魔導炉はもはや限界です。膨大なエネルギーの源泉に惹かれるように漂流してきた異邦神に憑りつかれ、制御を離れたようです。この惑星の全てを巻き込む大災害カタストロフィが起こる前に、デミューゴスの進言通り、彼の地に封印術を施し、その大地で原子魔導炉を異邦神ごと包み、閉じ込めます。先の魔神侵攻で深手を負った私の力ではこれが今は精一杯。放射されるエネルギーの全てを閉じ込めることは出来ないでしょうが、全人類の絶滅は避けることができるでしょう」


「万物の創造神たるルオ・ノタル様、マテラ・アズクナルや他の都市はどうなりましょうか」


なるほど、この会話の流れで行くと上空にある妙齢の女性の顔が≪ルオ・ノタル≫か。

何度か名前を耳にしたが、初めて顔を見ることができた。


まるで調子が悪いテレビ画面の様にその容貌ようぼうは、つらつらとぼやけてしか見えないが、長い髪の整った顔立ちの女神であることは分かった。

だが、その表情は乏しく冷たい印象だった。


そしてこの≪ルオ・ノタル≫と話をしているのが、エルヴィーラか。

古代エルフ族というからには、エルフと近い外見なのかと思っていたが、かなり違っている。

頭蓋骨の特異な形、異様に長い手足。

エルフというより宇宙人をつい連想してしまう見た目だった。


「この信仰深きアヌピア以外の都市は、救済しないことに決めました。最後まで原子魔導炉に反対していた賢明なる四人、エルヴィーラ、リンディア、ハーリュス、サーリオンを残し、他の古代エルフ族には罰を受けてもらいます。我が信徒を増やすという本来の目的を忘れ、まるで自分たちが神になったかのような思い上がり。文明科学の発展に頼り、神である私をないがしろにした。私は何度も忠告したはずです。過ぎたる力は滅びを招くと。デミューゴスは一度すべてを滅ぼすべきという意見でしたが、私はあなた方にもう一度機会を与えようと思っています。さあ、急ぎなさい。日が二度昇り、沈んだのち、この文明を終わらせます。民をこの≪箱舟≫に避難させるのです」


≪ルオ・ノタル≫の非情な通告に、四人の古代エルフ族は項垂うなだれ、「御意のままに」とだけ答えた。







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