第265話 屋上

クロード達の周囲の景色が一変する。


あたかも絵画の上に絵の具で別の絵を描き始めたかのように、今まで見ていた景色の上が別の景色で塗りつぶされていく。


目の前の四角錘台しかくすいだいの建造物は黒から白色へと変わり、規則的に並ぶ壁面の四角いくぼみのような部分には分厚い金属板のようなものが現れた。


路地はおもむきのある敷石の路面へと変わり、ところどころに落ちていた瓦礫がれきの破片は消えて、廃墟となっていた建物群は本来の姿を取り戻していく。


通りには、住人と思われる人々が現れ、都市は活気と喧騒を取り戻していく。


路地を通る人々の風貌を見ると、やはりエルフ族のようだった。

オルフィリアに比べると幾分耳が長く、手足が少し長いような気がする。

身に付けている服は、この異世界の住人のものと異なり色彩も多様で、デザインも凝ったものが多かった。


「どうなってるの?これ……」


闇ホビット族のカイティがクロードにしがみつくようにして呆然ぼうぜんと呟いた。


「敵かもしれない。みんな気を付けろ」


竜人族のエドラが注意を促す声をかけてきたが、クロードの≪危険察知≫には今のところ何の反応もない。


通行人の一人とガネットとぶつかりそうになったが、その通行人は何も気が付いている素振りは無く、そのまま彼女の体をすり抜けていった。


「ゆ、幽霊かしら……」


ガネットがその場でへなへなと座り込む。


突如、上空を煉瓦れんがのような形をした金属の箱が通り過ぎた。

見上げると、それほど多くはないがいくつか同じような箱が飛んでいた。


街灯と建物から漏れ出る光、空飛ぶ筐体に備え付けられてるライトで、元の世界の夜のような明るさだった。

この異世界に来て以来過ごしてきた夜とは違う文明の明るさがあった。


クロードはすぐ傍を通ったエルフ族の男性に触れようとしてみたが、やはり透過とうかしてしまうようだった。


「幻覚かしら? でも私たち全員が同じ風景を見ているのだとすると、植物の精霊の力を借りたとしても、こんな芸当はできないわ」


オルフィリアが天を仰ぎながら、呟く。


魔道……、魔道の術ならばどうだろう。


「シルヴィア、いるか? 」


クロードが辺りに呼びかけるが、いらえは無かった。


おかしい。

いつもであれば、≪姿隠し≫を解いて突然現れるなり、≪念話≫で応答してくるのだが、何かあったのだろうか。


「ちょっと、あれ見て、見て。大きい顔が夜空に!」


カイティが指さす先を見ると、確かに半分透き通ったおぼろげで巨大な女の顔が、四角錘台しかくすいだいの建造物の上空に現れていた。

口を動かしており、誰かと話をしているようであった。


五感強化により聴覚を研ぎ澄ますと、『エルヴィーラよ、時が無い』という女の声がはっきりと聞き取れた。


エルヴィーラ。

あの巨大な女性の顔のようなものが話しかけている相手を確かにそう呼んだ。

目線の先、この建造物の屋上にいるのだろうか。


「すまない。ちょっと、確かめてくる。ここにいてくれ」


クロードは皆にそう言うと、はるか頭上の先にある巨大建造物の屋上に≪次元回廊≫出口を設定し、移動した。


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