第264話 異様様相
「私と立ち会え」
竜人族の女戦士エドラの言葉に、場に緊張が走った。
先ほどまでの盛り上がりが嘘のように、静まり返り視線がクロードとエボラの二人に集まる。
「オルフィリアの知人ということだが、私はお前のことを知らないし、信用できない。正直、
「手合わせすれば、俺のことがわかるのか」
「わかる。竜人族の戦士は交す刃で相手のことを知る。その剣を取れ、飾りではないなら……」
実力を隠していたわけでも何でもないが、それで納得するなら、相手をするしかないか。
「わかった。俺の剣はちょっと訳ありで使うわけにはいかないから、お前の剣を貸してくれないか」
名工バイゼルに鍛えてもらった≪
エドラは腰に下げていた長剣を抜いて、クロードに手渡すと、自身は鉄製の使い込まれた雰囲気のある槍を構えた。
クロードは手渡された長剣を軽く振ってみて確かめた。
彼女仕様なのか、握り手に少し
「さあ、どこからでもいいぞ。かかってこい」
エドラは右前半身にして、上段に構えた。
構えに何か一瞬違和感を感じたが、どうやらそれは彼女が左利きであることによるもののようだった。
借りた剣の握り手の癖は、左利き用だったからだったのか。
オルフィリアたちも少し離れたところから固唾をのんで事の成り行きを見守っている。
槍相手となると魔将マヌードの分裂体に寄生され、クロード自身の手で引導を渡すことになってしまったヅォンガが思い出され、少し胸が痛くなった。
「どうした、怖気づいたのか。ならば、こちらから行くぞ」
エドラは腰を低く保ったまま、鋭い突きを二段に放ってきた。
最初の上段からの突きはフェイントで、そこからつなげた二撃目が本命のようだ。
クロードは軽いステップで横に一歩移動し、それをかわすと長剣で槍の柄を刃をたてぬようにして殴りつけた。
エドラの槍を壊してしまわぬように、同じ竜人族のドゥーラと稽古している時ぐらいの力加減にした。
「あっ」
エドラは短く声を漏らすと槍を地面に落としてしまった。
エドラが慌てて、槍を拾い、すぐに構える。
それほど戦闘経験があるわけではないクロードだったが、今の一合でエドラの力量がわかってしまった気がした。
槍の技巧はあるものの、突きの速さはヅォンガに及ばず、
竜人族の体力において男女の性差がどれほどあるのかわからなかったが、もうこの時点で苦戦するビジョンは浮かばなかった。
「まだ、まだ!」
エドラは槍を器用に回転させつつ遠心力を生かした打撃に切り替えてきた。
左右上下、さまざな方向から繰り出される攻撃をクロードは先ほどよりも数段手加減して、剣で
ただかわし続けることもできたのだが、貴重な槍相手の練習になると思い、あえてエドラと同様の速度でドゥーラから学んだことを思い返しながら、対応する。
「参った。私の負けだ」
数十合打ち合ってようやくエドラは負けを認めた。
息が乱れ、顔中汗だらけだ。
少し痛めたのか、地面に膝をついてぺたんと座り込んだまま、じっと掌を見つめていた。
「どうだ、少しは俺のことわかってもらえたか」
「終始、手加減していただろう。まったく底が見えなかった。悔しいが私など比較にならないくらい強い男だということは認める。私たちにとってはそれが全てだ。ただ、振るう太刀筋が竜人族のものと酷似していたが、誰か知り合いでもいるのか」
エドラの顔からは険が取れたようで、こうして見ると結構若い印象だった。
竜人族の寿命からすると自分より年上なのは間違いないが、人族で言えばまだ二十代前半ぐらいに見える。
竜人族特有の角と鱗が無ければ、外見的には少し背が高く筋肉質なだけで、人族とそれほど違いはない。
先ほどまでの自分を見る目と打って変わって、好意的な視線であるように感じるのは自分の気のせいであろうか。
「竜人族のドゥーラが剣術の師だからな。太刀筋も似ているんだろう」
クロードが手を差し伸べると、エドラはその手を取り、立ち上がった。
「ドゥーラってまさか族長様? 」
エドラの問いに、クロードが答えようとした瞬間、周囲がにわかに異様な
周りの風景が淡く光り始め、周囲の景色が
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと。これ
闇ホビット族のカイティが辺りをキョロキョロしながら慌てた様子で言った。
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