第263話 機関銃話炸裂

「ごめんなさい。全部、オルフィリアが悪いのよ。アタシたちには何も教えてくれないだけじゃなくて、すごい腕利きが来るとかもったいぶるようなことを言うから、期待だけが高まっちゃってて。それでやって来たのが≪卵級≫だったものだから露骨に態度に出ちゃった。≪卵級≫と分け前が一緒だなんて嫌だなとか思っちゃったわけ。初対面の時なんか、すごく気分悪くしちゃったでしょ。心から謝罪するわ。それで、あの≪次元回廊じげんかいろう≫だっけ? すごかったわ。魔道士なんでしょ。一瞬で目的地だもんね。これからはって呼ばせてもらうわ。アタシ、カイティ。もう覚えてくれたわよね」


闇ホビット族のカイティはとにかく圧倒されるような早口でまくし立ててきた。

クロードはタジタジになりながら、ようやく魔道士ではないことを伝えたが、カイティには、いぶかしげな顔をされてしまった。

どうやらこの異世界では、こうした不可思議な術を使う人間はたいてい魔道士であるという認識であるらしかった。


例えば生来与えられたスキルにより魔道士と似たようなことができる≪魔法使い≫と呼ばれる人々がごくまれにいるらしいのだが、彼らは≪炎魔法≫であるとか≪水魔法≫であるとか、与えられたスキル種類とレベルの範疇でしか魔力を運用することができない、いわば魔道士の劣等職のような感じであるそうで、厳しい修行などがいらない代わりに、できることは限られているのだそうだ。

とても長距離を一瞬で移動するなどの芸当は不可能なのだという。


野営地での食事が始まると、カイティはクロードの分の食事を持ってきてくれて、ちゃっかり隣に腰を下ろしたのだが、このマシンガントークの標的になってしまったのだ。


「誤解しないで欲しいわ。私はみんなに、私が初めて≪次元回廊≫を見せられた時の驚きと感動を味わってもらいたかっただけ。最初から種明かししたら面白くないでしょう」


オルフィリアが横から抗議の声を上げる。


「でも、実際便利よね。クロードさんがいなかったら、今頃まだ森の中。ここに来るまでに何日要したかわからない。感謝するよ」


全員分の食事の用意を終え、自分の分の食事を持ったガネットがクロードの向かいの場所に座った。


この賑やかな冒険者集団パーティ『背を追う者たち』の中では比較的落ち着きがあって口数の少ないガネットだったが、料理が上手で、野営の際の食事はいつも彼女が作っているという話だった。


実際、食べてみると十分な調理器具が無いにもかかわらず、火の通し方、味付けなど街の食堂に負けないレベルだった。


料理の味について褒めると、ガネットは「ドワーフの女ならこれくらい当然だよ」と照れくさそうに言った。

ドワーフ族は男が働き、女は家庭を守るという考え方であるらしい。


ガネットの父親は武器鍛冶職人をやっているらしく、その背を見て育った彼女はドワーフの女性の伝統的な生き方を受け入れられず、家を飛び出し冒険者になったらしい。

実戦で武器の扱いを学ぶかたわら、冒険者として見識を広め、必要な資金を貯めたあかつきには自分の工房を開くのが夢なのだと教えてくれた。


「アタシはね、オルフィリアと一緒に冒険して、世界に一つしかないアタシだけの宝物を見つけるのが夢なの。ねえ、どんな宝物か知りたくない? ホビット族に伝わる素敵な指輪の物語なの。聞きたいでしょ」


カイティはクロードの方に身を乗り出して、また自分の話を始めてしまった。

とにかく人の話を聞く側に回るより、しゃべりたい性格のようだった。



夕食を終え、焚き火を囲みながら、ガネットが配ってくれた温かい葡萄酒をすすりながら、彼女たちの冒険談に耳を傾けていると、突然、槍を持ったエドラが近づいて来た。


竜人族の女戦士である彼女は、クロードよりも背が高く、座った状態だとかなり大きく感じられた。


食事が始まってから今の今まで、クロードが中心の会話には参加せず、どこか距離を置かれていたような感じだった。

悪意こそ感じないものの値踏みするようなエドラの視線にクロードは気が付いていた。




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