第262話 古代都市遺跡調査初日

アヌピア都市遺跡の中心部に位置する四角錘台しかくすいだいの建造物にたどり着いた一行は、まずその大きさに圧倒された。


見上げると首が痛くなるほどに高く、建物の外周は徒歩で一時間近くはかかってしまのではと思われるほどだった。


城門跡付近から見た時はピラミッドのような古代建造物ではないかと思っていたのだが、近付くほどに、これはどちらかと言うと元の世界でいうところの高層ビルや近未来的な基地などの施設のようなものではないかという推測に変わって言った。


急な傾斜けいしゃになっている建物の壁にはパネルというか、金属とも異なる平滑な表面の外壁材のようなものが貼られていて、建造物の一階部分正面には扉のようなものも見受けられた。


建造物が黒く見えていたのは、外壁材にこびりついた煤やほこりのせいで指先でこすると白っぽい外壁材の元の色がわかる。


詳しく調べてみなければわからないが、外壁面には一定間隔ごとに微かに窪んで見える箇所もあり、ひょっとするとあれは窓ではないかとクロードは一人考えていた。


よくよく巨大建造物の周囲を見てみると、辺りは広くひらかれていて、他の建物が建っていた痕跡こんせきが無い。

今は見ることができないが、本当は敷地の境には柵や垣根などがあったのではないかと思われた。


建造物の正面から右手側には、同様に埃を被った金属の箱のようなものがいくつも並んでいた。

金属の箱のようなものは酷く錆びついており、腐食ふしょくが進んでところどころ大きな穴が開いているものも多かった。


実はここに来る途中も同じような金属の箱がいくつか散見され、建物のがれきの方に横倒しになっていたり、道を塞いでいたりしていたのだ。


金属の箱のようなものには、タイヤこそなかったが窓とドアが存在し、クロードにとっては自動車を連想させる物体であったのだが、他のメンバーにとっては得体が知れないばかりか、滅亡した都市という場所もあって、不気味なものに感じられたようである。


比較的楽観的な考え方をするオルフィリアでさえ、この錆びた金属の塊をアヌピア滅亡の原因ではないかと仮説を口にし、竜人族の女戦士エドラなどは、古代人のひつぎではないかと怖がり、近寄ろうとさえしなかった。



クロード達は、今回の調査の最大の目的物になりそうなこの巨大建造物にほど近い、比較的壁が多く残っている廃墟を見つけ、拠点野営地に定めた。

天井が残っている建物もないわけではなかったが、大きな亀裂や剥離はくりがあるものも多く、老朽化が心配だったので、使用は諦めることにした。


荷馬車から物資を降ろし、野営の準備を進める。


オルフィリアとすれば、すぐに目の前の巨大建造物の調査に着手したい気持ちはあったようだが、パーティリーダーとしての立場からか、ひとまず拠点を整え、その後は周辺の調査に留めておくことにしたようだ。



拠点設営後、クロード達は周辺の廃墟を一軒一軒調べて歩き、そこで発見された物品を回収しつつ、紙に都市の詳細しょうさいを記録していった。

全体図に建物の配置、路地跡を書き込み、地図を作る。


これは冒険者ギルドにアウラディア王国が依頼した「辺境地消滅のための調査」と「古代遺跡の解明」という二つのクエストに該当し、それらの達成のために必要な作業であった。


依頼を出したクロードの記憶では、報酬も結構悪くはなかったはずであったし、冒険者ギルドには発掘品はっくつひんなどを高値で買い取らせている。


「見て、見て。これなんか結構高く買い取ってもらえそうじゃない。お宝、お宝」


闇ホビット族のカイティは貴金属に目が無いらしく、とある建物跡で見つけた銀製の皿を手に小躍りしている。

見せてもらうと皿には植物をあしらったった装飾がなされており、たしかに価値がありそうだった。


他にも様々な物が見つかったが、経年の劣化の影響もあり、ほとんどが金属製や陶器製で、この都市の滅亡原因につながる物は見つからなかった。


オルフィリアの話にあった複数の目撃例があったという女性の姿も、古代エルフ族の預言者にして伝説級の魔道士でもあるというエルヴィーラにも出会うことは出来なかったがまだ初日だ。


ひとまず調査は順調に進んでいるということで良しとしよう。

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