第259話 新人君
アヌピア都市遺跡へ向かう当日の朝、約束の場所である冒険者ギルドにほど近い広場に行くと『背を追う者たち』はもうすでに来ていて、少し待ちくたびれた様子であった。
「遅い。遅すぎるぞ、新人君」
ドワーフ族の、確か名前はガネットだったか。
ガネットは彼女が背負ってゆくらしい大きな荷物の側に立ち、腕組みしたままクロードに向けて非難の声を上げた。
「いや、申し訳ない。約束の時間に来たつもりだったが……」
「クロード、気にしなくて良いわよ。私たちも今しがた来たところで、ガネットは気が短いから、いつもあんな調子なのよ」
素直に頭を下げたクロードにオルフィリアが可笑しそうな様子で言う。
「クロードさん、でしたよね。見たところ小さな背負い袋一つ。ここからアヌピア都市遺跡まで七日ほど、そこからさらに調査期間があって、帰りの日数も見なければならないけどその荷物で足りますか」
闇ホビット族のカイティが落ち着きのない様子でクロードの周りをぐるぐる回りながら怪訝な様子で訊ねた。
見れば彼女たちの荷物は各自、自分の何倍も多く、背負いやすいように背負子のようなものに積まれていた。
「装備を見ると新調したてという感じだが、本当に大丈夫か。実戦経験はあるのか」
今度は竜人族の女戦士エドラが声をかけてきた。
彼女たちは、オルフィリアが参加を持ちかけた≪
どの顔も、足手まといにならないか値踏みをしたくてたまらない様子である。
オルフィリアの方を見やると、彼女は少しいたずらっ子のような顔をして、吹き出し笑いをかみ殺しているように見える。
どうやらオルフィリアは、自分のパーティメンバーに、≪次元回廊≫のことや自分についての情報を何も伝えて無いようであった。
そんなやり取りをしていると二頭立ての四輪荷馬車が一行の元に近づいて来た。
「クロード様、遅れて申し訳ありません」
「いや、遅れていないよ。俺たちが早かったんだ」
この荷馬車はクロードが、ミーアに頼んで用意してもらったものである。
食料、水、野営道具のほか、遺跡調査に必要ではないかと思われる作業道具を積んである。
「おいおい、どこに行くつもりなんだ。街道が通ってない森の中を行くんだぞ。馬車なんか無理、無理。オルフィリア、この新人君は連れていって本当に大丈夫なのか」
ドワーフ族のガネットが赤黒く縮れた髪の毛に手をやりながら、あきれた様子で言う。
「しかも、荷馬車を使うって発想がどこかの貴族か、王様みたい。クロードさんって、新人のわりに随分とお金持ちなのね」
カイティが、早速、馬車の積み荷を
現時点で、『背を追う者たち』の自分に対する印象はあまり良くないようだ。
考えてみれば、仲がいい女子四人組であるこのパーティにおいて、自分は必要のない邪魔者だとみなされていても不思議はないのだ。
何のためにこの頼りない新人冒険者をオルフィリアが誘ったのかという疑念が彼女たちの胸中に渦巻いているのがひしひしと感じられる。
オルフィリアの様子を見ても、この状況は完全に彼女のいたずら心からきており、楽しんでいる様子が見て取れた。
しばらくの間、オルフィリアをほったらかしにしていたが、これはその仕返しか何かだろうか。
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