第253話 鍛冶仕事

ドワーフ族は古来より伝わる特殊な製法により魔鉄と呼ばれる魔力を帯びた特殊な金属から≪魔鉄鋼まてっこう≫を作り出すことができる。


≪魔鉄鋼≫で作られた剣は、通常の鉄製の剣に比べて特段、切れ味が優れているというわけではないらしいが、粘り強く刀身の耐久性に優れている。


魔鉄が帯びた魔力により、死霊や物理的な実体を持たない魔法生物などにもダメージを与えることもできるし、魔力に対する親和性しんわせいが高いなどの長所がある。


かなり特殊な使い方だとは思うが、クロードのように具現化された魔力を剣にまとわせる際にも≪魔鉄鋼≫でなければ、刀身が耐えられないようで、一般に流通している鉄製の剣などでは、≪斬撃≫などの心象イメージを具現化した魔力の作用に耐えられず、すぐに壊れてしまう。


クロードが打ち直しを依頼してまで、≪魔鉄鋼の長剣≫にこだわるのはこうした事情があったからなのであるが、名工バイゼルをもってしてもお手上げということであれば別の一振りを探し求める他はない。


だが、この愛用の長剣には何度も危機を救われており、深い愛着あいちゃくを感じる。


クロードは台の上で鈍い輝きをたたえている金属塊に歩み寄り、手で触れてみた。

表面に付着した煤の下は驚くほどなめらかな手触りで、金属特有の冷たさはあまり感じない。


「我らドワーフとしてもこのような≪鋼≫は初めてで、是非加工してみたい。不純物が少なく、強度もあり、何より美しい。鍛接たんせつの必要が無いほど均一で練度も高い。鍛造に入れるぐらいに十分な熱を加えられれば何とかなるだろうが、それだけに無念だ。うちの工房のと設備では十分な火力を得られない」


バイゼルの悔しそうな言葉に、自然と集まってきた弟子たちも頷いていた。

≪魔鉄鋼≫が変質してしまったのは、超高熱や神気の宿った炎による影響かもしれないがこれについては調べようにも誰に聞けばよいのかわからない。


「熱さえあれば何とかなるのか?」


「ええ、それは。ですがこの≪はがね≫は、通常以上の熱を加えてもがんとして姿を変えようとしない。もはや元の≪魔鉄鋼≫とは異なる合金になってしまっているようで」


クロードは、もう一度金属塊に向き直ると、袖をまくり右腕を火神オグンの特性を色濃くした≪神様態しんようたい≫に変えようとした。


石神しゃくじんウォロポと戦った時は、右手の一部だけだったが、袖まくりをした肘下のほとんどが腕の姿をした炎に変じた。

炎の≪神様態しんようたい≫にする部位についてはある程度調整できそうで、その割合も以前よりずっと大きくなったようだ。

今なら体の三分の一ほどを、取り込んだ神々の特性を帯びた≪神様態しんようたい≫になることができそうだ。


クロードは神気により生み出された炎の手で、金属塊に触れ、徐々に温度を上げていく。


炎は赤から目まぐるしく色を変えていき、やがて≪魔鉄鋼の長剣≫を溶かした白色へ。

室内に熱気がこもり始め、バイゼルたちが背後で動揺の色を表し始めた。


「おっと、やりすぎるところだった」


少し、火力を抑え、黄色の炎に近づくように調整する。


金属塊も徐々に熱を持ち、やがて赤く瞬き始めた。


「バイゼル殿、このくらいで良いのかな?」


振り返り声をかけると、呆然としていたバイゼルが我に返り、弟子たちに指示を出し始めた。


「急げ、命に代えてもこのひと振りを地上最高のつるぎに仕上げてみせるぞ。お前たち全員で準備しろ。湯を沸かせ。ぼさっとしてると、で頭かち割るぞ。ほら、急げ。タルム!火鋏ひばさみもってこい。金床かなどこに移すぞ」


にわかに作業場が活気付き、周囲が慌ただしくなる。


クロードは邪魔にならぬように部屋の隅に移動し、初めて見る鍛冶仕事を興味深く眺めていた。


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