第252話 魔鉄鋼異鋼
久しぶりの冒険者活動ということもあり、準備にも力が入る。
オルフィリアが作った
オルフィリアからは腕利きの助っ人を連れてくると言われていたらしい。
オルフィリアがその後、フォローを入れてくれたが、彼女たちの中での
竜人族の女戦士エドラなどは、「まあ、面倒見てやるから、安心しな」とクロードの背中を強く叩き、荒々しい歓迎をされたが、叩いた後、不思議な顔をするとともに、叩くのに使った手をしばらく見ていた。
アヌピア都市遺跡への出発は五日後なので時間的には余裕があったが、せっかく首都アステリアの市街地に来ているので、冒険に必要なものを
自分一人だけ卵級冒険者であるということもあり、せめて装備品ぐらいは一人前の冒険者に見えるようにしたい。
クロード・ミーア共同商会の本店は非常に繁盛しており、忙しそうに接客するミーアに挨拶すると、邪魔にならないように、必要だと思われる備品と防具を購入した。
防具については、神力で作った衣服の性能もあって、動きやすさと見た目を優先した。
正直、実用面では要らなかったのだが、防具も買えないのかと憐みの目で見られることを避けたかったのである。
火打石などの冒険者の七つ道具も、スキルを使えばそれで済むものも多く、必要ないものが多かったが一通り形だけそろえた。
自分も一応はこの商会の経営者の一人なので、店長のボーからは「会長から代金など受取れません」と言われたが、売り上げに貢献する意味でも定価で支払うことにした。
クロード・ミーア共同商会の本店を出た後、クロードは首都アステリアのはずれにある工人街区を訪れた。
工人街区の職人の中でも名工の呼び声高きドワーフ族の族長バイゼルには、溶けて金属塊になってしまった≪
バイゼルの工房は工人街区の中でも一、二を争う規模で火炉やふいごといった設備の充実ぶりも群を抜いていた。
十人を超える弟子がいるそうで、工房に近づくほどに、金属を鍛える音で賑やかになる。
「クロード様、このようなむさ苦しい場所までおいでになるとは。使いの者を寄こしてくだされば、すぐにでも登城いたしますぞ」
弟子の一人に名乗ったうえで用件を告げると、奥から慌てた様子でバイゼルが姿を現した。
長い髭や髪の毛を複雑な形に編み込んでいて、服装も他のドワーフと比べるといささか派手好みなこの男は、人懐っこい笑みを浮かべながら、クロードを工房の奥へと案内してくれた。
背は低いものの、背中は筋肉で盛り上がっており、横にがっちりとした体格だ。
バイゼルは本来気難しく、弟子たちからもとても恐れられている気性の男だが、酒の席で一度飲み比べをしたことがあり、その時散々に負かしたことがきっかけで、クロードに対しては
ドワーフにとっては酒に強いというのは、それだけで評価の対象になるらしく、すっかり気に入られてしまった。
魔将ザーンドラに追われ避難してきてから、ドワーフ族が受けた援助に対して恩を感じている部分もあるのかもしれない。
義理堅いのもドワーフ族の気質であるらしかった。
「しかし、正直なところ、来ていただいて良かった。なんと、言い訳すべきか迷っておったのです。私の腕を信じ、任せていただいたまでは良かったのだが、その後が……、ともかく見ていただきましょう。こちらです」
広い工房の奥にあるのは、バイゼル専用の作業場だ。
この場所には弟子であってもおいそれとは足を踏み入れることができないそうだ。
「クロード様、御依頼の≪魔鉄鋼の長剣≫の打ち直しですが、残念なことに私の手には余るようです。様々な方法を用い、
≪ガルバンダンの親父の石頭≫が何なのかはわからなかったが、溶かすことも傷つけることもできないという話は本当のようだった。
バイゼルの作業場の鍛冶台の上には、バイゼルに預けた時のまま変わらぬ姿で、その歪な金属塊は鎮座していた。
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