第251話 少人数先行調査

アヌピア都市遺跡を調査するという話を、財務大臣アラサールに持ち掛けてはみたがあまり良い反応は得られなかった。


闇エルフ族の中では珍しく鷹揚おうようで陽気な人柄の男だが、話を聞く内に次第に表情がくもっていった。


マテラ渓谷の遺跡群の調査の時は、国の財政を強固なものにするという目的があったが、今回の調査には明確な目的がないように思われるというのである。


他の重臣たちもおおむね同様の反応で、何のためにそれを行うのか、その意義を見出せないようであった。

闇エルフ族である彼らもアヌピア都市遺跡については何も知らないようだったが、その場所が滅亡したエルフ族の都市だと聞くと、死者の眠りをさまたげるべきではないというのが大多数の意見であった。


やはり、この異世界においてはオルフィリアやその父オディロンは異端ともいえる存在であるようで、学術的調査だの歴史の解明だのに興味を持つ者はいなかった。

今は亡きオイゲンにしても、成果が見通せない計画には賛同しないかもしれない。


そして何より、どのような滅び方をしたのかわからないが、アヌピアの民の浮かばれぬ魂が今なお成仏できないでいるのだとすると、大勢で押しかけてそこいらを掘って調べたりというのは死者への冒涜ぼうとくと思われても仕方がない。


国王の権限で、国家事業にするのは可能かもしれないが、闇エルフ族たちの祖先にもあたる者たちの魂が眠る都市ということもあり、あまり無理強いはしたくない。


やはり最初は少人数での先行調査を行い様子を見るのが妥当だろう。




「……というわけで済まない。調査隊は最低限の規模になってしまった」


クロードは首都アステリアの冒険者ギルドに赴き、オルフィリアに謝罪した。


「いいのよ。クロードさえ来てくれるなら、私のパーティメンバーもいるし、問題は無いわ。ちょっと一人で盛り上がりすぎてただけ。かえって無理難題を持ちかけてしまってごめんなさい。冷静になって考えてみれば、エルヴィーラの住まいになっていた場合、断りもなく勝手に調査始めちゃったら迷惑よね」


ギルド内の酒場のすみのテーブルに陣取り、調査に必要な物資について打ち合わせたり、お互いの近況について雑談していると三人の冒険者が近づいて来た。


「オルフィリア。今回一緒に仕事をするというのは、そのお兄さんかい?」


三人の中では一番背が高い竜人族の女性が声をかけてきた。

同じ竜人族のドゥーラと比べると少し小ぶりな角だったが、人族に似たその顔は精悍せいかんだった。

竜人族の女性連れは、闇ホビット族とドワーフ族の女性だった。


オルフィリアの紹介によると彼女たちが、オルフィリアの冒険者仲間であるらしい。


竜人族の女性は、エドラ。

槍と剣の使い手で、パーティでは前衛を担当している。


闇ホビット族の女性は、カイティ。

斥候を担当しており、素早く手先が器用でナイフなどの扱いも上手いとの話だった。

目と耳が非常に良く、誰よりも先に危険を察知してくれるパーティの生命線。


そして最後にガネット。

ドワーフ族の女性で、武器は片手斧と投げ縄を得意としている。

鉱物や地形の知識が豊富で博識はくしき

メンバーの中では力持ちで大きな荷物の運搬は主に彼女が担当しているそうだ。


「それで、あなた、名前は? 冒険者ランクは何なの? 何が得意なのかしら? 」


闇ホビット族の女性が早口で矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。

人族の子供くらいの体格だが、顔はしっかりと大人の女性だ。


どうやらオルフィリアは俺についての情報は彼女たちにまだ伝えてなかったらしい。

それにこの様子では、一応この国の国王であるということも気が付いていないようだ。


「えっと、名前はクロード。卵級たまごきゅう冒険者です」










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