第250話 案
オルフィリアの顔を見るなり、リタは「はっきり言ってお邪魔よ」と舌を出した。
「それは失礼しました」
オルフィリアはそんなリタの様子を見て笑い出し、リタも
まるで友達のようになっていた二人の様子に驚いたが、この短期間に自分も様々な人とのつながりができたことを考えると、不思議なことではないなとひとり納得した。
オルフィリアはクロードの正面に立つと「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」と
「いや、少し見ない間に立派な冒険者という感じになってたんで面食らった」
「クロードこそ、随分王様らしくなったように見えるわよ。出会った頃は凄い痩せてて、どこか不安そうだったけど、今は自信というか余裕のようなものを感じるわ」
はじめて会った日から一年くらいしか経ってないのに、お互い色々あったということだろうか。
久しぶりに会ったオルフィリアの顔は少し大人びて見えた。
「こらっ、いつまでも見つめ合ってないで、用件に入ったらどうなの?」
リタの声で我に返り、とりあえずオルフィリアに座るように勧めると、給仕のリーンにオルフィリアの分の飲み物と自分たちのお代わりを頼んだ。
オルフィリアは向かいのソファに腰を下ろすと訪問の理由を語り始めた。
「今日はクロードにお願いがあって来たの。国王としての仕事が忙しいのは分かっているんだけど、話だけでも聞いてもらえないかしら」
神聖ロサリア教国の一件もひと段落したし、時間的にも余裕がないわけではない。
彼女のたっての願いとあれば聞かないわけにはいかない。
「ここにリタがいるということは、私が冒険者パーティを作った話は聞いてるかしら?」
「ああ、今その話を聞いていたところだった。冒険者ランクも
「そうなの? リタのことだから何か変なこと言ってなかった?」
「言って無いわよ。失礼ね」
オルフィリアの言葉にリタが反応する。
「ごめんなさい。冗談よ。話が脱線しちゃったけど、クロードはテーオドーアさんが話していた≪魔境の森≫の西にある遺跡群について憶えているかしら? 」
もちろん憶えている。
確か、オルフィリアの父オディロンを若き日のテーオドーアが案内したという話だったはずだ。
「そう、その遺跡よ。実は亡くなったオイゲンさんの残した書物の中にもその遺跡群についての記述があったの。アヌピアという古代に滅びた都市の
オルフィリアがこの城に来たばかりの頃に、オイゲンの
「冒険者の活動をする傍ら、闇エルフ族や様々な種族のお年寄りたちにその遺跡群についての情報を尋ねて歩いていたんだけど、最近、ある老婆から気になる話をきいたの。アヌピアはもともと古代エルフ族の治めていた都市で、神の怒りに触れて滅ぼされたという伝承が残っている場所なのだけれど、その付近では昔から山菜や薬草を取りに行った人たちの間で度々、女性の姿が目撃されていたというの。滅ぼされたアヌピアの民の亡霊であるとか、怨念が人の形をとったのだとその老婆は言っていたわ。クロード何かピンとこない?どうして目撃されるのはいつも女性なのかしら」
「すまない。もっとわかりやすく説明してもらえるかな」
「父オディロンの足跡とアルバンさんの話にでてきた古代エルフ族のエルヴィーラ。エルヴィーラと父は師弟のような関係にあったらしいけど、二人は一体どこで知り合ったのかしら」
オルフィリアは興奮した様子で
「つまり、オルフィリアはその数々の目撃談にあるその女性がエルヴィーラだというんだな」
「そこまでは言い切れないわ。ただ、そうだったらいいなとは思っているだけ。父の足跡をたどる意味でもいつかはその遺跡を訪れるつもりではあったんだけど、どうせ調査するなら、この間のマテラ渓谷の遺跡群のときのように本格的な調査をしたらどうかなと思って今日はこの提案を持ってきたの。もしかしたら財宝の類も見つかるかもしれないし、魔境域にどんな場所があるか
なるほどオルフィリアは、調査を国家事業として行うことで調査に掛かる莫大な費用を援助してほしいということを暗に提案しているだけでなく、移動や輸送の足として自分を当てにしているようだ。
ちゃっかりしているというか、しっかりしているというか。
外から見える印象だけでなく、こうしたしたたかさも冒険者としての成長の一端であるのかもしれない。
「わかった。エルヴィーラには俺も興味があるし、検討してみよう。調査隊の規模については皆に
「久しぶりに一緒に冒険できるといいわね。いい返事を待っているわ」
クロードの言葉にオルフィリアの顔が明るくなる。
ノトンの町の宿で、「私と一緒に冒険者になってくれない?」と手を取り懇願してきた時のことをつい思い出してしまうような無邪気な笑顔だった。
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