第249話 刮目

しばらく話をしていなかったこともあり、リタの話が止まらない。


冒険者ギルドの運営に携わる日々がよほど楽しいのか、目を輝かせてこんなことがあった、あんなことがあったと身振り手振りを交えながらの話が続く。


給仕のリーンが入れてくれたお茶とちょっとした菓子類を楽しみながら、リタの話に相槌あいづちを打っていると興味深い話が出てきた。


オルフィリアのことである。


最近、オルフィリアは自分の冒険者パーティを作り、着々とギルド内での地位を高めているのだそうだ。

ランクも、卵級から成竜せいりゅう級になったらしい。

クエストをこなすかたわら、魔境域内の様々な史跡しせきや古代遺跡などを巡り、貴重なアイテムや発見を次々としているらしく、ギルド内の貢献度は高いようだ。


「ようやく、話に食いついてきた。やっぱり、あのエルフのことは気になるんだ」


リタが少し不機嫌になった顔を近づけてきた。


気にならないと言えば噓になる。

彼女の父親の行方を一緒に探すと約束したのに、自分のことばかりで約束を果たせていない。

聞けば、新しい仲間とパーティを作ったらしいし、ほったらかしにしていた自分が悪いとはいえ、少し寂しい気もした。


「私の勘では、クロードはあのエルフ女のこと好きなのかなと思ってたけど、本当のところはどうなの? 最近ちっとも会ってないみたいだし、ひょっとしてフラれちゃった?私が慰めてあげようか」


リタは、クロードが座っている側のソファに移ってくるとぐいぐい体を押し付けてきた。

彼女の二つに結った黒髪からは良い匂いが漂ってくる。


俺はオルフィリアのことをどう思っていたんだろうか。

リタの言葉に一瞬考えてしまったが、自分がシルヴィアに対して抱いている気持ちとは違うものだったということだけは今はわかる。


「いや、彼女とはそういう関係ではないよ。この世界に来てから初めて会った人だし、たくさん世話にもなった。彼女の父親を探す約束もしてたから気になってるだけだ」


リタの体を引き離し、座っている場所を少し移動し、距離を取る。


「相変わらずのつれない態度。こんなかわいい美少女に迫られているのに、勿体もったいないのお化けが出るよ」


今度はのしかかるような態勢で迫ってくる。


「リタ、はしたない真似は……」


クロードがリタの密着を阻んでいると、ドアがノックされた。


「クロード様、オルフィリア様が面会を求めていますが、いかがなさいますか」


ドアの向こう側から、闇エルフ族の衛兵ハールーンの声がした。

真面目で、任務に忠実。そしていつもながらいいタイミングで声をかけてくれる。


強引にリタを引きはがし、ソファに座らせると、クロードは扉の外に控えるハールーンに向かって、「入ってもらってくれ」と声をかけた。


「お邪魔だったかしら……」


ドアの向こう側から現れたオルフィリアの姿に思わず刮目かつもくしてしまった。


プラチナブロンドの癖のない美しい髪に、透き通った湖面のような色の瞳。

相変わらず神話やおとぎ話の世界からそのまま飛び出てきたような神秘的な雰囲気を湛えていたが、出会ったころが妖精ニンフだとすると、今はさながら狩猟と月の女神を思わせる凛とした強さと気高さが備わっているように感じられた。


深緑のチュニックに革の胸当て、腰には細剣を佩き、背には短弓を背負っている。

身に付けている薄手のマントには、以前クロードが贈った月をあしらった銀細工の衣類留めが淡い輝きを放っていた。


少し見ない間に本当にたくましくなっていた。


三日会わなければ刮目しなければならないのは女子も一緒だとクロードは思った。




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