第247話 理由説明

イシュリーン城に戻って最初にしなければならないことはゲイツ博士とリタを会わせることだった。


ゲイツ博士の「自分は非力で戦闘向きではない」という申告が正しいのか、リタの≪鑑定≫スキルで確認してもらい、彼の言葉の信憑性と危険度を見極めなくてはならない。


元々はデミューゴスに仕える≪使徒≫の一人であったし、この投降とうこう自体がデミューゴスのはかりごとである可能性も考えておかなければならないのだ。


リタは冒険者組合の仕事が忙しいようで城にはいなかったが、≪次元回廊≫で例の立派過ぎる組合の事務所まで迎えに行くと、嬉しそうな様子で駆け寄り、いつものように人目もはばからずに抱きついてきた。


リタとは冒険者組合を立ち上げた頃から、互いに忙しく顔を合わせる機会もほとんどなかった。

この場所にも会いに来ようと思えば来れたのだが、シルヴィアのこともあり、足が遠のいていた。


リタとは当然、何の関係もなかったが、こうも堂々と甘えられると、≪姿隠し≫で身を隠したまま、今もどこかから見守ってくれているであろうシルヴィアに誤解されてしまうのではないかと内心不安になる。



「クロード、最近私のこと避けてない?」


リタは顔を上げ、ジト目でクロードの目を見た。


「いや、そんなことはない……と思う。互いに忙しかったし、ほら、神聖ロサリア教国の一件でドタバタしてたから」


しばしの沈黙があり、空気が重くなる。

リタの大きな黒い瞳に何か見透かされそうで、緊張してしまう。


「それで、今日はどうしたの。冒険者組合の運営が上手くいっているか、王様自ら視察に来たというわけではないでしょ」


クロードはリタの華奢きゃしゃな体を優しく引き離すと、急な訪問の理由を説明した。


「ゲイツ? あの爺さん、まだ生きてたんだ」


「リタはゲイツのことを知っているのか?」


「≪異界渡り≫としては、私の後輩ね。私の十年あとくらいに儀式でこの世界に来たはずよ。最初、あんなお爺ちゃんが召喚されたもんだから、儀式失敗だって騒ぎになったけど、レアスキル沢山持っていたから、大魔司教には重用されていたみたいね。私はその後、脱走騒ぎ起こしたから、ゲイツとはあまり話したことはないけど……」




あまり気が進まない様子のリタを連れ、城に戻ると早速、ゲイツと引き合わせてみた。


意外なことにゲイツはリタのことをよく覚えていて、「ようやく見知った顔に出会えた」と少し表情が和らいだ。

聞けば、召喚後の右も左もわからぬときに、この世界についてあれこれ教えてもらった思い出があるのだという。


肝心のリタは「そうだったかしら」と首をかしげていたが、確かに彼女にはそういう人懐っこさと面倒見が良いところがある気がした。

自分もイシュリーン城に来たばかりの頃、話を聞いてもらい、不覚にも滂沱ぼうだの涙をさらしてしまったことがあった。


冒険者組合の仕事も結局は、困っている人の悩みを報酬の代わりに解決するような性質もあるし、リタには合っているのかもしれない。



しばしの歓談の後、別室にてリタからゲイツのステータスと所持スキルについて確認を取った。


ゲイツの能力値ステータスは、やはり本人の申告通り、常人より少し優れた程度であり、城内の者と比較するとオロフやドゥーラはおろか、一般の兵士にも勝てるか微妙なレベルであるらしい。


所持スキルは≪超記憶≫、≪鑑定≫、≪分析≫、≪調合師≫、≪多種族言語理解≫、≪古代言語理解≫、≪薬物知識≫、≪科学知識≫、≪機械加工技術≫、≪魔力操作≫、≪魔力感知≫等々。


ちなみに魔力量は少なく、高いレベルの≪魔力操作≫、≪魔力感知≫を所持しているがほとんど戦闘の役には立たないのだそうだ。


とりあえずゲイツ本人の言葉の裏は取れた形となった。


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