第243話 施設

シルヴィアが示した辺りの瓦礫がれきや砂埃を丁寧に取り除けると、タイル張りの床が出てきた。

床は何かを描いたタイル画になっていたようで、絵の全体像がどのような感じになっているか少し気にはなったが、用があるのはその下の地下階段だったので、右の拳の一撃で叩き割り、瓦礫をどけた。


中は確かに空洞になっていて、地下階段が現れた。


何か罠のようなものが仕掛けられている可能性もあったので、シルヴィアには少し遅れて来るように言い、クロードは自ら先立って地下階段を降り始めた。


≪危険察知≫と≪五感強化≫をフルに働かせて、最大限の警戒で一歩一歩、階段をしばらく降りていくと壁というより取っ手の無い金属扉に阻まれた。


指を引っかけるような部分もないので引き戸でもなさそうだし、軽く押しても動く気配がない。

注意深く魔力探査を行うと、何らかの隠蔽いんぺいが為されているのか、微かに魔力の痕跡こんせきがある。


何か特殊な開け方があるのだろうが、面倒だったので魔力をまとった右足で蹴破る。

扉に付与されていた魔力がどのようなものであったのかわからなかったが、クロードの右足に込められた魔力の大きさに抗いきれなかったようで、扉を覆う魔力は四散した。


ひしゃげた金属扉が床に跳ね返る音が虚しく響く。


扉があった場所から中に足を踏み入れると、そういう仕組みであるのか、にわかに照明が付き、室内の全貌が視界に飛び込んできた。


地下室は天井が高く、思った以上に広い空間だった。

材質は分からないが透きとおった円筒形のタンクがいくつも置かれていて、紫色の透明な液体で満たされていた。

液体が満ちたタンクの中には、額に赤黒い宝石のような物を埋め込まれた人間の男女が入っていたが、意識はないようだ。


聖女アガタが魔石人間と呼んでいた者たちで間違いないだろう。


円筒形の容器のあちこちには様々な径のチューブが繋がれていてその先には複数の計器が付いた謎の機械が設置されていた。



巨大なタンクが整然と並ぶ通路を進んでいくと奥に扉が現れ、その扉も壊す。


何か最近力任せの雑な行動が増えてきた気がするがこの際、仕方がないか。


音を聞きつけて、シルヴィアが小走りに追いついてきた。


「クロード様、この施設は一体。金属でできたあの箱のような物体はなんでしょうか。巨大な瓶の中にいる人間たちは……」


シルヴィアは興奮しきった様子で辺りを見回している。

彼女にしてみれば、完全にオーバーテクノロジーなのだろうし、パニックになってもしかたない。

この異世界よりも科学的には発展していた世界から来た自分もこれらの機械類については何をするための物なのか、まるで分らない。



まだ現時点では何者による、如何なる目的の施設であるか断定はできないが、円筒形の巨大な容器に入った魔石人間が、聖女アガタ、そしてデミューゴスとのつながりを強く感じさせる。


もしこの推理が当たっていたとすると、これだけの施設を作るにはかなりの年月と労力、そして技術が必要であったと思うが、それを放棄して逃げるというのはデミューゴスにとってもかなりの痛手であったのではないのだろうか。


地上の施設の破壊状況に比べて、地下部分は手付かずのままであったので、ほとぼりが冷めた後で再び戻って来て、利用する考えもあったのかもしれない。


この施設が作られた本当の目的は何か。

この非人道的とも思われる魔石人間たちは何のために作られていたのか。

デミューゴスがこの神聖ロサリア教国でやろうとしていたことは何なのか。


いずれにせよ、もっと詳しくこの施設を調べる必要がある。


クロードは、シルヴィアを背に地下室奥の、先ほどまで扉があった場所の先へ足を踏み入れた。

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