第242話 石神業
地面を覆う巨大な石の塊をよく観察すると、溶けたのは表面だけであることがわかった。
厚さは平均すると一メートル未満で、凸凹とした板状。厚さにはかなりばらつきがある。
地面を覆う面積からすると、かなりの人数が収容できる集会場や教会のような建物であったのかもしれない。
手で触っても冷めていることから、自然の溶岩の様にすべてが融解し固まったものではないことがわかる。
超高熱と周囲を巻き込む熱波。
あの神力が混じった魔力の
なにしろ女神ロサリアを始めとする神々を打ち破るような力の持ち主である。
軽薄そうな態度や道化のように見える振る舞いは、彼の本性を隠す仮面のようなもので、その言動からは想像もできない力をまだ他にも秘めているのかもしれない。
「これは、ひょっとすると我々白魔道士が使うような≪陣≫を用いたのかもしれませんね。個々の力が黒魔道士に劣る傾向にある我らが得意とする技術なのですが、魔力を増幅させる術具や儀式によって≪陣≫を作れば、時間はかかりますが実力以上の術を発現させることができます。この建物にあらかじめ超高熱を発生させる≪陣≫を施しておけば、私にはできませんが、あの仮面の魔道士であれば可能かもしれません」
シルヴィアの分析を聞きながら、改めてデミューゴスのこれまでの行動を思い返してみると共通するある性質が浮かび上がってくる。
デミューゴスは臆病と思えるほどに慎重で、しかも気が長い。
罠を張ったり、証拠隠滅のための≪陣≫を仕込んで置いたりと非常に用意周到だ。
まるで巣を張り巡らして、その中心で待つ蜘蛛。
やはりデミューゴスに相対するには、巣を張り巡らす時間を与えず、こちらから探し出し、正攻法の闘いに持ち込むのが有効であるように思われた。
主導権はこちらが握る。
あの男の思い通りにはさせない。
「シルヴィア、少し遠くに離れていてくれないか。今からこの岩をどかす」
「えっ、この岩をですか?」
シルヴィアが後方に退避したのを確認して、意識を集中させる。
石神業の≪岩石操作≫で目の前の巨大な石塊を浮かせようと試みた。
石の塊が、ところどころで割れながらも動き始めた。
風が砂埃を巻き上げ、無数の石の瓦礫がまるで大地から受ける重力の干渉を受け無くなったかのように次々と浮かび上がる。
やはり巨大な一枚板の様に見えていた溶けて固まったガラス質の薄い膜に覆われていただけで、その下は個別の石材であったようだ。
地中に生き埋めになったラジャナタンの人々を救出する際に一度使ってみたことはあるが、これほどまでに巨大な塊を、それも一度に動かしたことはなかった。
だがそこはやはり、
消費した神力もさほどではないわりに効果は絶大であった。
浮かせた石の
大きな音と地響きを立てて瓦礫が少し先の民家の焼け跡の辺りに落ちる。
「シルヴィア、地下に降りる階段がありそうな位置はわかるか」
「……あっ、すいません。階段の位置ですね。わかります」
シルヴィアは茫然としていたようで、少しの間があったが、駆け寄り地面のある場所を指さした。
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