第240話 異世界全体像

女神ロサリアを取り込んだことにより得られた≪御業みわざ≫の中に≪天空視てんくうし≫というのがある。

これは神力を消費することで、あたかもはるか上空から地表を見下ろすような視点で、この惑星のいたるところを眺めることができるというものだ。


建物の内部や洞窟の中などは視ることはできないが、この≪天空視≫と≪次元回廊じげんかいろう≫を組み合わせると地上のありとあらゆる場所に瞬時に行くことができる。


≪次元回廊≫を使うには明確な入り口と出口の設定が必要で、移動できる範囲も肉眼で見る視界の中のどこかに限定されていたので、何か所もの地点を経由しなければ遠方に行くことはできなかったが、この問題が解消されたことになる。


≪天空視≫を得られたことによる恩恵はそれだけではなかった。


目を閉じ脳裏に浮かぶ景色から、自分がいるこの異世界の全体像を知ることができたのだ。


この異世界は、かつて自分が暮らしていた地球という惑星に酷似していた。


惑星の大部分は海で、陸地の形が元の世界とほとんど同じだった。

驚くべきことに日本列島そっくりの島があり、五大陸もほぼそのまま存在した。


じっくりと観察すると、北海道の面積が倍ぐらい大きかったり、有りえない場所に陸地が有ったりと、ディテールがおかしいところもあるが、子供が手作りした地球儀の工作程度にはよくできている。


クロード達がいる辺りは、元の世界の地図で言えばヨーロッパの西部地方辺りによく似ていた。

山河の位置や地形、標高などはおそらく再現できていないようで近づいてみるほどに、こんな感じだったかなと首を傾げてしまう。


遠目に知り合いだと思って近くまで寄って視ると、全くの他人であったというあの感じに似ていた。


クローデン王国や神聖ロサリア帝国などが存在する辺りは世界全体で見ると最も発展している文化圏であるらしく、他の大陸や島々などにも都市らしきものは存在するものの人口は少なく、規模などの面で格段の差がある。

気候条件、風土、あるいは神々の働きかけの多寡によって、各地域ごとの生存のしやすさ、暮らしやすさに格段の差があるのかもしれない。


≪天空視≫により今までとは異なる視点からこの異世界の姿を眺めて確信を深めつつあることがあった。


この異世界と自分が元にいた世界である地球はやはり何らかの関係がある。


魔物や生物、それにエルフやドワーフなどの亜人たち。

完全に同じではないものの、元の世界の創作物の影響を強く受けて創造されたと思われる節があるし、そしてこの惑星の姿。


この世界の創世神ルオ・ノタルは≪地球ガイア≫を模倣してこの異世界を作ったのではないか。




このようにして、クロードは政務と政務の間の空いた時間を使いながら、今の自分にできることをひとつずつ把握するように努めていたのだが、初めて≪天空視≫をつかった際には、様々な地域に住む人々の暮らし、未知の生物、各地の状況などを見るのが楽しくて、つい長時間使用してしまい、突然の鼻血と激しい頭痛によって周囲の人間をひどく心配させることになってしまった。

取得される情報量の多さゆえか≪天空視≫は、人間の脳にはひどく負担がかかるようであった。


さすが九柱の神々の筆頭であるというべきであろうか。

女神ロサリアから得られたのは、≪発光≫、≪光操作≫、≪天候操作≫、≪神雷≫、≪飛翔≫、≪物質創造≫、≪姿形変化≫、≪天空視≫と多岐にわたった。


≪天候操作≫と≪神雷≫については周囲の環境に与える影響が懸念されたので、まだ試してないが、それ以外は神力の消費量もそれほどではなく、便利なものばかりであった。


≪発光≫は消費する神力の量により輝きが異なる光源を発生させることができ、≪光操作≫は自らが作り出した光源を動かすことはもちろんのこと、視界の範囲内の明かりなどの輝度を上げたり、下げたりも可能だ。


≪飛翔≫は文字通り体を浮かせて自由に移動することができるし、≪姿形変化しけいへんか≫は自分の脳内にあるイメージの精度で他者や動物、様々な物体などの姿形に変化したように見せかけることができた。


こうした新たに得られた能力を試している姿を見たシルヴィアは、「クロード様を見ていると、魔道士として培ってきた力と自負、そしてあの厳しい修行の日々が虚しく思えてきます」と嘆いていた。

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