第238話 議

会議の冒頭でクロードは、現在の神聖ロサリア教国の状況、そこに至った経緯などを説明した。


ロサリア神の消滅やデミューゴスの真の狙いについてなどは話しても混乱をきたすだけであろうし、最近城下で、クロードのことを勝手にであるとして吹聴して回るくだんの新興宗教に勢いを与えることになりそうだったので、そのことには触れないことにした。


教皇の死、首都ルータンポワランにおける集団催眠と支配、デミューゴス一派との遭遇と結末についてクロードの口から語られると皆真剣な面持ちで聞いていたが、聞いた上で今後どうすべきかという案については誰からも出てこなかった。


与えられた仕事をこなすという上では優秀な人材たちであったが、今は亡きオイゲン老と比べると、何かを発案しそれを実行するという能力には欠けている。


自分もどちらかというと受け身で指示待ち人間という評価を元にいた世界では受けがちだったので、この欠点を補える人材の発掘は急務であると思われた。


会議が止まってしまうので、次は各人からの報告を聞くことにした。


まずは何といっても魔境域侵攻についてである。

魔境域内外の境には、オロフの指示で猫尾族の斥候を放っていたがその報告によると、あの後侵入を試みた者はおらず、今日は不在のリタからも異変があるという話は上がってきていないようだ。


「クロード様、我ら白魔道教団からも報告があります」


会議室の扉の前に突如として、背の高い白ローブの男が現れた。

確か名前はロンだったと思う。


ロンの出現に場の全員が一瞬身を固くしたが、「味方だ。次からは扉から入ってきてくれ。皆が警戒してしまう」というクロードの言葉で警戒を解く。


「失礼いたしました。お許しください」


ロンは、ローブのフードを上げ、その素顔を晒すと跪いた。

短く刈り上げられた髪に、知性を感じさせる顔立ち。

歳は、見た目四十代前半に見えるが魔道士の年齢は見た目通りではないらしいので本当のところはわからない。


ロンの報告は、ローデス城を中心に駐留する神聖ロサリア教国軍についてだった。

神聖ロサリア教国軍は、本国での異変の影響か、あるいは然るべき人物の指示によるものなのか不明だが、占領した東部二州を統治するのに必要な兵数を残し、本隊は本国に向け帰還を始めたとのことだった。


この報告を聞き一同の表情がにわかに明るくなる。


「つまり、当面の危機は去ったと考えてもよろしいということですかな」


この場の最年長である財務大臣のアラサールが安堵の声を漏らす。

闇エルフ族にしてはふくよかな印象のあるこの男は算術に長け、数字に明るい。

神聖ロサリア教国と戦になった場合の試算もすでにしてくれていたので、ドゥーラやオロフたち武官側とは違った心配を抱えていたのであろう。


「しかし、備えだけはしておかなくてはなるまい。我らの国の存在が密やかにではあるがクローデン、神聖ロサリア教国といった国々に知られつつあるのだ。同様の野心を持つ者が現れないとも限らない」


竜人族を中心とした炎竜騎士団を率いる将軍ドゥーラの言葉に皆が頷く。

報告によるとドゥーラは戦に備え、国軍の練兵や武具等の装備品の調達をしてくれていたようである。


個人的には、シルヴィアと見たルータンポワランの混迷はそう簡単に収まりそうだとは思えなかったので、デミューゴスらが再び魔の手を伸ばさぬように警戒する必要はあるものの、魔境域の危機については警戒のレベルを一段下げてもいいと思われたが口には出さなかった。


魔境域の境には当面の間、斥候を置き、警戒は緩めない方針にすることで決まった。

あとは引き続き首都アステリアの建造を進めつつ、防衛の機能を高めることでどの方面の如何なる脅威にも対抗できるようにすべきという結論を持ってひとまず閉会した。


閉会後は各大臣と分科会的に、滞っていた決裁や諸問題につき話し合い、不在時の政務をこなした。

今回ぐらいの短い不在でも、やはり国政は滞ってしまうようで、やはり全体を取り仕切ってくれる宰相を置かなくては正直不便だと思った。



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