第237話 円卓
イシュリーン城に戻ったクロードは、まず今後の対応を取るために、神聖ロサリア教国に対する人質として身柄を押さえていたマルティヌス枢機卿に会うことにした。
「ヤニーナ、この人は誰かな?」
「マルティヌス枢機卿ですが、お忘れになられたのですか」
マルティヌス枢機卿だと言われれば、その面影はある。
だが、類を見ないほどの肥満体だったはずだが、今は少し恰幅が良いと思われる程度にまで痩せており、垂れ下がるほどについていた首周りの脂肪はとれてスッキリしていた。
睡眠不足なのか目の下にはひどい隈ができており、目には生気がない。
しかもクロードが話しかけても全くの上の空で、「おお、ソニャ。ソニャはいずこに」と呟くばかりであった。
クロードはマルティヌスをルータンポワランに送り込み、枢機卿として彼の地の事態収拾と魔境域征討軍の働きかけをしてもらうように説得するつもりであったが、ここまで短期間で容姿が変わってしまっては同一人物であるか信じてもらえない恐れもあった。
しかもこの精神状態ではまともな働きなどできるはずもなく、ひとりでルータンポワランに送ったところで何もできそうにない。
「ところでクロード様、ここ数日で何か変わったことでもございましたか」
ヤニーナが淫靡な笑みを浮かべながら、異様なほど近くに寄ってきた。
クロードの胸元の匂いを嗅ぎ、顔を見上げる。
「いや、その……色々あったがそれについては諸将を集めて説明する」
「そうですか。随分と男の色気が増されたようで。何か良い体験をなされたのですね」
ヤニーナの蛇を思わせる瞳孔に全て見透かされているような気がして、慌ててマルティヌスの軟禁部屋を出た。
クロードは専属秘書官のユーリアではなく、エーレンフリートを呼ぶと、城内の招集可能である主要な幹部を会議室に集め、ルータンポワランでの一部始終を報告した。
武官は将軍職に任じたドゥーラ、オロフ、それと参謀長の肩書になったエーレンフリートが出席し、文官からも政務、法務、財務、建設の四大臣が出席した。
政務、法務、財務の三大臣はオイゲン老の下に仕えていた闇エルフ族の官僚の中でも特に重用されていた三人をそのまま昇格させ、抜擢した。
政務大臣はアグリン、法務大臣はナーラゴス、財務大臣はアラサールという名である。
建設大臣は闇ドワーフ族の族長の長子クロームで、彼を加えた四大臣がアウラディア王国の現在の国政の中枢であると言える。
全員、それぞれの種族としてはまだ若い方で、クロードしては比較的話しやすいメンバーであった。
王を支える七人の主要幹部は円卓に着き、少し離れた席には専属秘書官のユーリアが書記として座っている。
リタは冒険者ギルドの方が忙しいらしく、幸いにも城にはいなかった。
彼女たちとは特別な関係にあったわけではなかったが、会えば先ほどのヤニーナの様に何か見透かされてしまうような気がして、どこか気まずさを感じていた。
気まずさの原因はシルヴィアとのことだと思うが、これは完全に自意識過剰であろう。
オルフィリアについても同様の気まずさがあり、これは逆に考えると自分の中に彼女たちに対する好意がいくらかはあったことの証拠ではないかと今更ながらに気が付いた。
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