第235話 裸歩回羞恥
封印結界からの脱出を果たしたものの、デミューゴスと聖女アガタの姿はもうすでに消えていた。
≪危険察知≫のスキルにも周囲にそれらしき気配は無い。
魔石人間の女たちは意識を失い、床に倒れ込んでおり目覚める様子は無かった。
呼吸はしっかりしているし、はたから見た感じだと普通に眠っているように見えた。
先ほどまで鳴り響いていたあの無数の鐘の音ももう消えていて、静まり返った室内には、教皇パウルシス二世の哀れな屍が横たわるばかりであった。
クロードは、シルヴィアの視線から、ふと自分が全裸であったことに気が付いたので≪物質創造≫で先ほどまで着ていたような見た目の巡礼服を作り、それを身に付けた。
特に何の効果も付与していないので神力の消費はわずかだ。
貴重な神力をこんなことに使うのはもったいない気もしたが裸で歩き回る羞恥に耐えるよりはよほどマシだ。
人間としての残された尊厳とでもいうべきであろうか。
もし、このような状態が気にならなくなったのなら、いよいよ人間ではなくなってしまったのだと認めるようで、この最後の一線だけは越えてはいけない気がした。
とりあえず教皇殺害の嫌疑をかけられては厄介なので、シルヴィアに念のため≪姿隠し≫の術をかけてもらい、建物を出た。
教皇パウルシス二世の寝室は、やはり教皇庁宮殿にあったようで、そこから渡り廊下を抜けて大聖堂の正面出口に向かう途中、床に横たわる人の姿を幾人も見たが、一様に死んではいないものの意識はなく、やはり目を覚ます様子もなかった。
衣類は乱れ、まぐわいの途中であった者たちも散見され、身を重ね合ったままだった。
大聖堂の外も同様で、おびただしい数の信徒たちが横たわる隙間を通り、宿に戻った。
この意識不明の状態はデミューゴスの封印結界の副作用だと推察できるが、意識を失った人々が元通りの状態に戻るのか。
戻った場合、教皇の死がどのような事態を引き起こすのか。
他にも術の影響を受けた範囲はどの程度の広さであったのかなど、分からないことだらけで、とりあえず様子を見るしかないという状態だった。
クロードたちは、戻った宿の部屋で休息を取りながら、ルータンポワランの夜明けを待った。
クロードは寝台に仰向けになり、隣のベッドで仮眠をとるシルヴィアの寝息を聞きながら、女神ロサリアを取り込んだことで自身に起きた変化と得られた記憶の断片を確認していた。
女神ロサリアから得られた≪御業≫は天空神業。
≪肉獄封縛≫により制限がかかるこの肉体で使うことができるのは≪発光≫、≪光操作≫、≪天候操作≫、≪神雷≫、≪飛翔≫、≪物質創造≫、≪姿形変化≫、≪天空視≫のようだ。
≪物質創造≫は火神業ですでに得ているので、かぶりだったが、生み出せる物質の種類や質が向上したりするのだろうか。
デミューゴスの神力を帯びた雷撃により、≪肉獄封縛≫は大きくその効果を落としたようで、火神業においては≪神火≫、石神業においては≪部分鉱石化≫という≪御業≫が使えるようになった。
≪神火≫については、今までは神力で創り出した火を勝手に≪神の火≫と呼んでいたのだが、それとはどのくらい違うものなのか。
少し試してみたい気もしたが、いずれにせよ神力をさらに多く消費する上、元々は神の≪御業≫であったわけだから、そう軽々しく使うわけにもいかない気がした。
発現させたはいいが、想像を超える威力で手に負えない事態を巻き起こす可能性もないとは言えない。
女神ロサリアから得られた神力の総量はやはり多くの信徒を抱えていただけのことはあり、火神オグンや
数値化することは出来ないが身の内に湧き上がる力が感じられ、何か一つ上のステージに上がったと錯覚してしまうほどの実感がある。
デミューゴスの≪万命灯冥獄封印≫とかいう結界空間からの脱出に必死であったのと、肉体の再生の痛みに耐えながらであったので、慌ただしく、女神ロサリアから取り込んだ記憶の断片については脳裏に浮かんではいたものの、ただ流してしまい、朧げにしか覚えていない。
≪三界≫で出会ったルオの面影がある若い女性の顔。
その少女の側に立つ白皙で華奢な青年。
女神ロサリアと対峙し、彼女を追い詰めた黒い闇の塊のような怪物。
その怪物の口に放り込まれた白髪の老人。
そして、胴体のところで真っ二つにされた長い黒髪の男。
他にもまだたくさんあったのだが、じっくりと視る間もなく女神ロサリアの記憶の断片は失われてしまった。
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