第225話 朝
朝になってしまった。
閉ざされたままの木窓の向こうからは、野鳥のさえずりや通りを歩く人々の声などが聞こえ始めている。
クロードは寝台に横たわったまま、呆然と天井を眺めながら、自分のしてしまったこととこれからのことを考えていた。
なんでこんなことになってしまったのか。
あの後、あの謎の鐘の音は深夜まで鳴り響き、その間シルヴィアは半ば半狂乱となって激しく求めてきた。
自分は≪精神防御≫であの鐘の音の影響を受けていなかったにもかかわらず、場の雰囲気に流され、シルヴィアの美しい裸身を本能のままに求めてしまった。
二人とも経験がなかったので、ぎこちなく稚拙であったが、それでも生物に備わった本能というべきものなのだろうか。異常な興奮状態のなか、肉体が求めるまま、事を成してしまった。
一度では終わらず、鐘の音がなり続ける間、何度も何度も。
破瓜の血を見て、一瞬とんでもないことをしてしまったと冷静になったが、それでも身を寄せ、迫ってくるシルヴィアを拒むことは出来ず、交わり、彼女の中で数えきれないほど果てた。
目を閉じると昨夜のことが詳細に思い出されて、罪の意識が湧き上がってくる。
どう考えてもシルヴィアの状態は異常だった。
どのような作用があの鐘の音にあったのか自分にはわからなかったが、ある種の催淫作用や興奮状態を作り出すものであったのは彼女の様子からうかがえた。
≪精神防御≫で影響を受けていなかった自分が何としても彼女を落ち着かせるべきではなかったのか。
今更後悔しても後の祭りなのだが、自然とため息が出てしまう。
こういう男女の秘め事は、好き合っている者同士で、しばらく付き合ってお互いのことを理解した上でするものだとクロードは思っていたので、刹那的に欲望に流される形で初めての経験を済ませてしまったのは少し残念な気もしたし、シルヴィアにも悪いことをしたと思った。
シルヴィアのことは正直言って異性としては意識していなかった。
フードの下の素顔は非常に美人であると思っていたが、魔道士という特殊な身の上であるからか、どこか中性的で、しかも近寄りがたい雰囲気があった。
性格も個人的にはあまり得意ではないタイプだった。
相手があまり几帳面で、真面目過ぎると、自分のいい加減さやだらしなさ、無計画さを見抜かれるような気がして、学生時代も、所謂、学級委員長をやっていそうな感じの女の子は苦手だった。
だが、傍らに寄り添い、無防備に鼾をかいて眠るシルヴィアの寝顔を見ていると何とも愛おしく思えてきて、不思議だった。
シルヴィアとそのようなことになっている間、この部屋の周囲からも激しい男女の営みを想像させる声や物音が聞こえており、もしあの鐘の音が町中に響き渡っていたのなら、町中とんでもないことになっていたはずである。
もっとも隣から聞こえてくる悩ましい音はすぐ止んだので、あれほど長い時間
そろそろ起き上がって街の様子を確かめに行かなければと静かにベッドを降り、そこいらに脱ぎ散らかしたままの衣類を集め、身支度をした。
シルヴィアはよほど疲れ果てたのか、一向に起きる気配を見せなかったので、そのまま寝かせておくことにした。
ドアを開けて出ようとすると、すぐそこに宿の女主人が立っていて、お互い驚き、声を上げそうになった。
クロード達が一泊の予定だったにもかかわらず、なかなか起きてこないので気を揉んでいたらしい。
クロードは部屋の外でその件を詫びるともう一泊泊まりたい旨を伝え、寝具を汚してしまったこと、そしてそれを弁償させてほしいということを付け加え、少し多めに代金を手渡した。
「気にしなくてもいいんですよ。若いお二人連れだとよくあることですもんね。子は宝。たくさん産んでもらって、ロサリア神にお仕えさせないとね。私のところなんかは六人も
齢四十半ばくらいの女主人は誇らしげに胸を張った。
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