第219話 選択肢

この囚われていた人々をどうすべきか。

一人一人の希望を聞いて、望み通りにしてやりたいところだが今はあまり時間が無い。もたもたしていると昏倒させたロサリア兵の仲間が様子を見に来たり、巡回が来る可能性もある。


ひとまずこの場から逃げたいというのは共通の意見であったようなので、脱出の算段をつけなければならない。


まずは物音をたてないように見張りを各個撃破し、大聖堂を出る状況を創り出すことに決めたので、シルヴィアにその旨伝えようと思ったが、気が付くと姿が見えなくなっていた。


仕方がないのでまずは出入口の扉前の見張りを片付けようと、扉の方に歩いていこうとすると、突然シルヴィアが目の前に現れた。


「クロード様、脱出の準備ができました。見張り達は全員、魔道の術で眠らせました。今なら外に出ても大丈夫です」


シルヴィアは表情一つ変えず淡々とした様子だった。


「白魔道の戒律では、魔道士以外に危害を加えてはいけないんじゃなかったのか?」


「はい。ですからクロード様に怪我をさせられないように、彼らを保護する目的で眠らせました。それに白魔道教団は、クロード様を≪救済者≫であると定めました。≪救済者≫を守護する目的での魔道の使用は全ての戒律に優先して認められています」


何か詭弁のような気もするが、荒っぽいことをしなくて済んだのは助かった。

無駄な≪恩寵レベルアップ≫は避けたいところであるし、全員無事に脱出させる難易度が大きく下がる。


ただ前にも聞いた≪救済者≫という言葉が引っかかる。

≪世界を混沌より救い導く者≫を意味する言葉であるらしいが、≪混沌≫とは何を指すのだろう。こうした一つ一つの目に付いた難事にお節介にもいちいち首を突っ込む者のことでないことは確かであろうが、後でシルヴィアに詳しく聞いてみたいと思った。



人々の拘束を解き、大聖堂の外に連れ出すと、シルヴィアの言葉通り、見張り達は眠りこけていて、起きる様子が無い。


クロードは≪次元回廊≫を使い、ひとまずブロフォスト近郊の街道沿いに人々を移動させ、そこで今後の身の振り方などを相談させることにした。


≪次元回廊≫での移動を体験した者たちは、様変わりする風景と途方もない距離を一瞬で移動したという事実に驚き、クロードをロサリア神の使いだと祈りと感謝の言葉を捧げる者が多くいた。

これだけ酷い目に遭ってもまだロサリア神に対する信仰を持ち続けられることに驚き呆れながらも、それがこの先生きていく力に結びつくのならしかたがないと納得することにした。


彼らは神聖ロサリア教国の占領が続く限り、生まれ育った東部二州には帰ることができない。

他の土地に縁故者がいれば良いが、そうでないならばこの先の暮らしは相当の苦労が待っていることだろう。ほとんどが身寄りを失った女性や子供ということもあり、生活の糧を得るだけでも困難だろう。


「どうかお見捨てにならないでください」


そう口々に詰め寄る人々にクロードは三つの選択肢を提示した。

一つ目はレーム商会のヘルマンに相談し、今後を委ねること。

二つ目はクロードが治める魔境域の国アウラディアに移住すること。

最後の一つはブロフォストに着いた先からは自らで身の振り方を決める。


二つ目については、クロードがアウラディアという彼らにとって未知の国の王であることを明かした上で、人族も住んでいる事実を伝えたが、場所が魔境域にあるということもあって、希望者はいないかと思われた。


しかし、予想に反して半数ほどがクロードに付いていく意思を示し、その中には先ほど助けたソフィーもいた。

聞くと東部二州を見捨てたクローデン王国への不信が理由らしく、魔境域に対する不安もあるが、助けてくれたクロードが王の立場ということを知り、決して悪いようにはされないのではないかと思ったらしい。


レーム商会に頼ることを希望した人々をヘルマンに引き合わせ、その面倒を頼むとその場では快い返事をくれたが、人気のない所に連れ出され、「こんなにたくさんの人間の食い扶持をなんとかしろなんて僕一人の力では無理ですよ」と文句を言われてしまった。

クロードはひたすら拝み倒し、路頭に迷って人買いなどの手に渡ることのないように無理矢理約束させた。






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