第217話 魔力認識阻害
クロードは、いつもの白ローブ姿ではなくロサリア教徒が身に付ける巡礼服を身に纏ったシルヴィアを伴い、神聖ロサリア教国の旧国境沿いの町ベジェに来ていた。
フードではなく髪を隠すベールを身に付け、黒を基調とした布地に白いロサリアの聖印が入った服装のシルヴィアは、普段の魔道士然とした印象と異なり、どこか僧籍に入った尼や修道女のような触れ難い清廉さを身に纏っていた。
女性としては背が高い方で、姿勢が良く、中性的な印象だったが、こうして見ると決して異性としての魅力が無いわけではないことに気が付く。
男にも女にもモテるそういうタイプだ。
「何か、おかしいですか」
じろじろ見ていたつもりはなかったが、シルヴィアが聡明そうな眉をひそめて、尋ねてきた。
「いや、あまりにも普段のローブ姿と印象が違うので驚いていた。不快だったのなら謝る」
「決して不快というわけではありませんが……、慣れないので少し自分でも恥ずかしい気がしています。私は
シルヴィアはぎこちない表情で少し頬を赤くした。
フードに隠れて今までは表情が読み取りにくく、事務的な会話から冷たい印象すら感じていたが、どうやらそうではないらしい。
「無理をしてまで、ついてこなくても良かったんだぞ。それに一緒に変装する必要はないんじゃないのか」
「いえ、クロード様は≪次元回廊≫で一人いずこかへ消えてしまわれることが多いので、そうなると我らも≪飛翔≫や≪転移≫などの大掛かりな術を使わねばならず、そうなるとどうしても魔力の流動や働きに敏感な者たちの目に付きやすくなってしまいます。私とクロード様には魔力の存在が感知されないように≪魔力認識阻害≫がかけられていますが、如何なる存在が潜むかわからぬ地で行動するにはこの姿で付き従う方が都合が良いのです」
確かにいつものローブ姿では、見るからに魔道士という感じであるし、≪姿隠し≫を使わないのであれば目立ちすぎてしまう。
クロード自身もレーム商会を通じて入手した男物の巡礼服を身に付け、懐には手頃なサイズのロサリア神を象った木像を忍ばせていたが、なんだかスパイ映画の登場人物になったようで楽しく、少し浮き立つ気持ちがあった。
本当はオルフィリアも連れてきたかったが、神聖ロサリア教国は亜人種に対して偏見がある国であるようだし、今回は声をかけなかった。
旧国境沿いの町ベジェは、クロードが初めてブロフォストを訪れた頃、全住民が一夜にして消えたと騒ぎになっていたあの町である。
情報売りという道化のような恰好をした男が街頭でそう言っていた。
クロードは最初そのことを忘れていたが、開け放たれたままの城門のアーチや店の看板など、人気のない町のいたるところで、この町の名前を見かけようやく思い出した。
異様な風景だった。
街並みはそのままに全く人の姿がない。
月日がたった影響か、家の庭先には雑草が伸び放題になっており、ところどころ扉や窓が壊された後も見受けられたが、それでも建物の影からひょっこり住人が顔を出すのではないかと思える程度の荒れ具合だった。
町の規模はノトンよりも大きく、石畳の舗装が整備されていて、井戸や排水溝などもあり、割と栄えた町だったことを偲ばせる。
人口も数千、いや万に近いぐらいは住めそうだ。
これだけの町の住人が一度に消えるというのはにわかには信じられない話だが実際に目の当たりにしたので、受け入れる他ない。
当初、クロードはいきなり神聖ロサリア教国の首都に行ってやろうと意気込んでいたのだが、≪次元回廊≫を何地点も経由する途中で、奇妙な一団を見かけ、その後をついていく過程でこの町にたどり着いてしまったのだった。
縄で数珠つなぎになり護送される人々。百人前後はいただろうか。その周囲には、ロサリア騎士が複数配置されており、馬車に積まれた木の檻の中には子供たちが押し込められていた。
日暮れ前、数十人の騎士に囲まれた人々の群れは街道を進み、このベジェの町に入った。どうやらこの場所で夜を明かすつもりらしく、町の中央の大聖堂を中心とした辺りに夜営の拠点を置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます