第189話 管理下

森の精霊王エンテによれば、今の世界に存在する精霊王や精霊を創ったのは、ルオネラではなく≪九柱の光の神々≫なのだという。


九柱の光の神々。


神々の筆頭にして主神。光の神ロサリア。

夜と月星の神ヌーヴュス。

大地の神ドゥハーク。

水の神ヤーム。

火の神アハタル。

風の神セラン。

戦の神バラン。

知恵と学問の神ウエレート。

獣の神ヴォルンガ。


それぞれの神が、自らの領域の管理をするために生み出したしもべが、精霊王であり、その下に連なる精霊たちなのだという。


≪九柱の光の神々≫はそれぞれ得意とするエレメントの精霊を生み、それらを互いに共有している。

例えば≪大地の神ドゥハーク≫は魔境域の森一帯を管理するために森の精霊王エンテを創り出したが、その管理下に置いた土地に存在する精霊すべてが≪大地の神ドゥハーク≫の創造した精霊であるわけではない。他の神々が創造した精霊も存在しており、それらの精霊はその土地を任された精霊王に従うように創られているのだそうだ。



≪九柱の光の神々≫はルオネラから勝ち取った≪世界≫を分割して管理することにした。


光の神ロサリアは日中の天空と世界全体の統括を。

夜と月星の神ヌーヴュスは太陽が出てない天空全てを。

大地の神ドゥハークは大地の全てを。

水の神ヤームは海と川の全てを。

火の神アハタルは全ての火と大地の神ドゥハークの管理を離れた溶岩を。

風の神セラン吹き渡る風と大気の全てを。


≪九柱の光の神々≫には序列があり、支配域を持たない神々もいるがその代わりその任されている領域においては他の神々の干渉を受けない約定がなされている。

≪戦≫、≪知恵と学問≫、そして≪獣≫だ。


こうして話を聞くと、全てが神々の支配のもとにあるように思えるが実情は異なるらしい。


ルオネラを討ち果たした≪九柱の光の神々≫は、彼ら自身もその力の大半を使い果たし、傷つき、それぞれの神域に隠れてしまったのだという。

自分たちは現世に直接介入することなく、代行者たる精霊王を生み出し、今もどこかで≪世界≫の営みを見守っているそうなのだが、その居場所は森の精霊王たるエンテであっても知らされていない。


「エンテ、少しおかしくないか。ルオネラは≪九柱の光の神々≫に打倒されたんだろう。勝ったはずの≪九柱の光の神々≫がいなくなって、負けたはずのルオネラがなんで現世で大魔司教や魔将などの眷属を従えて活動できているんだ」


クロードは、宿り木であるゴルドフィン杉から再び姿を現したエンテに尋ねた。


「それには少々、わらわも首をかしげているのです。わらわの知る限り、三百年ほど前の神々の大戦で、ルオネラは確かに人族の英雄――主様とは別のクロード――初代クローデン王国国王と≪九柱の光の神々≫によって打倒されました。ルオネラは、現世で力をより発揮するため土くれを用いて作った巨大な依り代に宿り、山のような巨人の姿で戦っていたそうですが、敗れた後は、その神気を大量に帯びた土砂となって魔境域全体に崩れ落ちた。これが現在の魔境域の異様ともいえる生態系の原因となったわけですが、この時敗れたルオネラと瓜二つの神気を持つ今のルオネラが大戦後、≪九柱の光の神々≫がお隠れになるのを待っていたかの如く、突如どこからかあの眷属どもを率い現れたのです。今のルオネラは、かつての創世神たるルオネラほどの力は持っていないようでしたがそれでも神は神、あの仮面をつけた怪しげな男の命ずるまま、襲い来るルオネラに抗うことができず虜になってしまった。その後は次元の狭間に囚われ、主様とのにつながるわけですが……」


森の精霊王エンテは、こちらを上目遣いで見ながら、頬に手をやり、体をくねくねさせている。


「仮面をつけた男が命じていたというが、ルオネラの方があるじではないのか」


「いえ、そうであるはずなのですが、わらわが見たところ、ルオネラはどこか虚ろな様子で、仮面の男の言うがままに動いておりました。そう、言わば親に連れられた幼子の様に。あるいは主人に付き従う奴隷の様に」







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