第187話 卵級冒険者

二人に案内されるがままに中に入ると、嫌な予感がしていた通りかなり贅沢な造りで、はっきり言ってブロフォストの冒険者ギルドよりも数段立派だった。

軌道に乗るまでは簡素な造りでいいと言っていたはずだが、その意図はどこにも反映されていない。

商会の輸送の仕事やラジャナタンの移民問題の件で留守がちで、この件はリタに任せきりだったので、確認していなかった自分にも責任がある。

見ればカウンターも、クエストボードも一通り揃っていて今すぐにでも運営を始められそうな感じだ。


一階のホール・ロビーに併設している酒場にはすでに記念行事のための人だかりができていた。


オルフィリアや各種族の族長たちもすでに来ていた。中には待ちきれずに酒を飲み始めている者たちもいたが、和やかな雰囲気で皆どこか楽しげだった。


「クロード王、このような楽しそうなことを考えておられたとは。冒険者……でしたか、それがしも、休日限定でやってみるつもりです」


竜人族の族長ドゥーラは、冒険者が如何なるものかを聞き、かなり興味が湧いたようだ。一族の若い鍛錬にもなるし、戻って奨励するつもりであることを明かした。

腕っぷし一つを頼りに生計をたてるという部分にとても心惹かれるものがあるそうだ。


クロードは皆に押し出されるように臨時に作られた壇上に上がり、時間通りであったはずだが、場の空気を読み、来場が遅れたことを詫びた後、型通りの挨拶と乾杯の掛け声をした。



それにしても広い酒場だ。

席とテーブルの数だけざっと見ても二、三百人は入るのではないだろうか。

種族によっては体格が大きい者たちもいるので人族の建物よりも大きくなるのは分かるが、相当経営努力しなければ維持するだけでも大変そうである。


クロードは、初代ギルドマスターに就任することになっている紅炎竜レーウィスと副ギルドマスター予定のリタ、それにオルフィリアと同じテーブルに座り、ふんだんに用意されたご馳走に手を付けた。


ブロフォストから買い付けてきた食材や香辛料を使いつつ、魔境域内の灰色熊やシカの仲間のような動物を調理したクローデン風魔境域料理といったところか。

相変わらず原型を留めているので、やや勇気がいるが味は問題なく旨い。

ブロフォストでよく食べられている腸詰めや家畜の乳を加工して作ったチーズのようなものもあった。


酒も麦酒や葡萄酒、他にもクロードが見たことのない酒まであった。これらは魔境域外から買い付けた酒で、普段ドワーフ族の火酒や闇エルフ族たちが自分たちが楽しむ分だけ作る貴重なキーラ酒ぐらいしか飲んだことがなかった各種族の族長たちはその旨さに脱帽し、自分たちも直接買い付けたいと口々に盛り上がっていた。


この建物の建造に携わったヘルマンから紹介を受けた大工集団の頭と闇ドワーフ族長の長子クロームが挨拶に来た。

かかった費用を聞くのは恐ろしいが、この建物の出来栄えは確かに素晴らしい。

まだ殺風景な首都アステリアにおいてもっとも目立つ名所の一つになったことは間違いない。

素晴らしい仕事にねぎらいの言葉をかけると二人とも非常に感激していた。


クロードは楽しそうに酒を交わす多様な種族の者たちを眺めながら、自身も葡萄酒を口に運んだ。


「クロード王、予算については……その少々足が出てしまったが、なかなかにいい出来であろう?それに頼まれていたブツは、この通り用意しておいたぞ」


紅炎竜レーウィスはクロードとオルフィリアの目の前に卵型の金属板をそれぞれ置いた。


手に取ってみると、それは青銅でできていて裏には、「卵級冒険者 剣士 クロード」と彫り込まれてあり、その下には性別と年齢の他に自己申告の特技が記されていた。


「卵級? 」


「そう。特別扱いしないで一番下の階級から始めたいというから、二人とも卵級からのスタートにしておいたぞ」


「いや、一番下からとは言ったが、階級については資料とギルド証の見本渡しておいたはずだったが……」


クローデン王国のギルドは、「青銅鳥、鉄熊、銀狼、金獅子、魔銀竜」の五段階だったので、その辺の階級システム案は流用しようと考え、昇格基準や諸々を記してリタに渡してあったはずだった。


「ああ、あれは却下だ。鳥だの狼だので上下関係を決められると快く思わない種族もいるからな。ミッドランド連合王国の冒険者は、卵、幼竜、成竜、魔竜、古竜の五段階だ。もうギルド証もたくさん作ってあるし、もう変更不能だぞ」


レーウィスの少しも悪びれていない説明に、クロードとオルフィリアは見つめ合って苦笑いした。

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