第186話 初代組合代表

城門を出て、丘陵沿いの下り道をしばらく進むと首都アステリア内に続く外門がある。

かつてこの場所は鬼人オーガ族の門番が配置され固く閉ざされていたが、現在は開放され、登城する人間の確認をするための衛兵が置かれるのみとなっている。


外門を出ると、以前は林道であったのだが、今は敷石による舗装がなされ、そのまま首都のメイン通りに合流する。城に一番近い辺りは行政区で役所や各種族の連合王国における代表者たちが首都滞在時に使うための邸宅などがある。理路整然と区画された土地に、少しずつではあるが建物も増えて見栄えするようになってきた。


行政区を抜けると各種族の居住区があり、その先が商業区や手工業区だ。

例外もあるが基本的には城を中心とした同心円状にこのような都市造りがなされ、外郭の星形城塞まで続く。


商業区は他の区画と比べるとまだ開発が進んでいるとは言えない。

商取引をする他都市の存在が無く、商売という概念も人族に比べ、他の種族にはまだそれほど浸透してはいないからだ。


それでも、クロード・ミーア共同商会がこの地区に本店を建て、商いを始めると、見よう見まねでその日多く取れすぎた狩りの獲物や薬草などを売る者たちが増え始めた。


マテラ渓谷の遺跡群で発掘された硬貨の内、銅貨と銀貨が首都アステリアで流通され始めたことも重なり、空き地にはちょっとした市場のようなものが散見するようになってきていて、各種族に割り振った領土の発展具合にもよるだろうが、この地区が賑やかな商業地区になる日もそう遠くはないのではないかと思わせる光景だった。



このようにまだ少し寂しい景観である商業区の大通りにひときわ目立つ建物が誕生した。


今日の目的地である冒険者組合事務所である。


「あいつら、やってくれたな」


建物の外観を見て最初に出たクロードの言葉だった。


砦を思わせる堅固で巨大な建造物。

両翼を広げた竜を想起させる雄大で荘厳な外装に、おそらくドワーフの工人の手によるものと思われる様々な種族の冒険者を表現した精緻で見事な彫刻の数々。竜人族の戦士、闇エルフ族の射手、人族の魔道士、狼頭族の武闘家、闇ホビット族のシーフ、ドワーフ族の重戦士などなど。古典的で古めかしい意匠と落ち着いた色調の煉瓦が、新築であるにもかかわらず、さながら魔王か何かが住んでいそうな威厳のようなものを感じさせる。


その建物が冒険者組合事務所であることを思い出させてくれるのは外壁に取り付けられた看板だけだった。


それにしても立派だ。

立ち上げたばかりということもあるので、できるだけ質素にと言っていたはずだったが、質素という言葉の対極にある。

予算内に納まっていればいいが、おそらく完全に超過していることだろう。



「遅い、遅いぞ、クロード王。主賓が来なくては宴が始まらぬではないか」


入り口で待ち構えていた紅炎竜レーウィスが駆け寄ってきて眉毛を吊り上げる。


「まあいい。とりあえず我が居城……ではなく、冒険者ギルドへようこそ。どうだ、素晴らしい建物だろう。私が初代ギルドマスターになるわけだが、それにふさわしい事務所だと思わんか?」


紅炎竜レーウィスが大きく胸を張る。


透明化して隠れていたのであろうか、突如、レーウィスの背後にリタが現れ、両手を合わせて言った。


「ごめん、クロード。ちょっと悪乗りしすぎちゃった」

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